今まで便秘にも下痢にも、1度もなったことがないという人は少ないのではないでしょうか。それほどポピュラーな便秘や下痢ですが、実はさまざまな原因によって起こることが分かっています。今回は、便秘や下痢の原因とその対処法について紹介したいと思います。
風邪を引いたときに出る症状が人それぞれであるように、おなかに起こる不調も人それぞれです。代表的なものが便秘や下痢といった排便障害ですが、そもそもなぜ便秘や下痢を起こしてしまうのでしょうか。
また、便秘と下痢を繰り返すような場合、何らかの疾患を発症している可能性はないのでしょうか。対処法とあわせて解説していきたいと思います。
CONTENTS
便秘の原因
便秘で悩んでいる人の多さは、便秘外来がとても繁盛していることでも分かります。便秘外来の中には、数年先でないと予約が取れないところもあるそうです。そんな便秘ですが、何が原因となっておこるのでしょう。
便秘の原因1 食習慣
私たちの便は食べたもののいわば「残りカス」のようなものです。そのため、食べたものによって便の状態も左右されることとなります。
便秘になる食習慣としてもっともよく知られているのが、食物繊維の摂取量が不足しているということです。食物繊維には不溶性の食物繊維と水溶性の食物繊維とがあり、それぞれが便の形成や便意を促すことに貢献してくれています。
不溶性の食物繊維はその名の通り、私たちがもつ消化酵素によって溶けないという性質があります。また、保湿性が高く、消化管内の水分を吸収して膨張しながら、胃から腸へと移動していきます。
不溶性の食物繊維が腸内で膨張することによって、便の嵩が増します。嵩を増した便が腸管を刺激することによって、便意が促されることとなるのです。
水溶性の食物繊維は消化酵素によって溶かされ、ゲル状になって消化管内を移動していきます。ゲル状になった水溶性の食物繊維は、便に適度の水分を含ませて、便通を助けてくれることとなります。
厚生労働省の定める基準によると、18歳から69歳までの男性の場合、1日あたり20g以上の食物繊維を、女性の場合は18g以上の食物繊維を摂取することが必要だとされています。
ところが、実際の食物繊維摂取量は、男性で15.0g、女性で14.4gにとどまっていることが分かっています。その原因として、食の欧米化があげられています。
高度経済成長期以降、日本人の食事は欧米化し、以前とくらべてカロリーの高い食べ物や脂っこい食べ物を好むようになったとされています。
食の欧米化といわれますが、肥満大国であるアメリカでは、ドレッシングをかけずに野菜を食べる運動があり、それによって日本人よりも1人当たりの野菜消費量が増えているという現実があります。
日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことからも分かるように、旧来の日本人の食事は健康によく、日本人の体質にもあっていたのです。
ところが、肉食を中心として白米やパンなどの炭水化物を多く摂るようになった現代では、昔に比べて便秘の人が増えているという訳なのです。
便秘の原因2 生活習慣
「ストレスは万病のもと」などといわれることがありますが、便秘にとってもストレスは大敵です。なぜなら、ストレスがたまることによって、自律神経のバランスが乱れてしまうからです。
自律神経は交感神経と副交感神経とで成っており、両者がバランスを保つことによって、私たちの生命活動が正常に保たれています。
ごく単純に説明すると、私たちが日中、活発に動いているときには交感神経が優位になります。反対に、夜になって身体を休めるときには副交感神経が優位になります。
副交感神経が優位になっている夜間、私たちが眠っている間に食べたものの消化や吸収が活発におこなわれることとなります。
ところが、ストレス状態が継続することによって、寝ている間も交感神経が優位になると、寝ている間の消化や吸収を阻害してしまいます。それによって便秘になってしまうという訳なのです。
便秘の原因3 運動習慣
便秘になる原因としては、運動不足もあげられています。若いころは部活や体育の授業などで身体を動かす機会がありますが、社会人になるとよほど意識しない限り、若いころのように身体を動かす機会がなくなってしまいます。
私たちが食べたものは口の中で唾液に含まれる消化酵素と混ぜ合わされ、消化されやすい状態になって胃へと送られます。胃の中に送られた食べ物は、3時間から4時間かけて消化されます。
胃で消化された食べ物はその後、十二指腸へと送られて胆汁や膵液といった分泌物によってさらにドロドロにされ、小腸へと送られます。
小腸ではドロドロに溶かされた食べ物から栄養素の吸収がおこなわれます。その後、大腸に送られた残りかすから、さらに水分が吸収されて便が作られることとなります。
口から胃までは重力の働きによって自然と食べ物が送られますが、腸はくねくねと曲がっている上に、上に行ったり横に行ったりさまざまな形をしています。
そのため、腸の「蠕動」と呼ばれる運動によって、食べたものは先へ先へと送られるのです。ところが、運動不足によって筋力や腹圧が低下してしまうと、腸の蠕動が弱くなってしまい、結果として便秘になってしまうのです。
また、運動不足になると、全身の血液循環にも悪影響を及ぼします。血液は酸素と栄養を全身に運んでおり、血液が不足した場所には栄養状態の低下がみられることとなります。
胃の血液が不足すれば、食べ物の消化が進まないこととなりますし、腸の血液が不足すれば、栄養素の吸収や水分の吸収にも悪影響が現れることとなります。
便秘の原因4 病気
便秘になる原因としては、病気もあげられます。大腸がんや腸閉塞、子宮筋腫や子宮内膜症などの疾患が原因で腸が圧迫されると、便秘を起こしやすくなります。
便秘の種類
一口に便秘と言っても、さまざまな種類の便秘があり、それぞれ原因も異なっています。それでは、便秘にはどのような種類があるのかについて見ていきましょう。
便秘の種類①機能性便秘
私たちが通常「便秘」という言葉を用いる場合、ほとんどが機能性便秘のことを指しています。機能性便秘には、一過性単純性便秘やけいれん性便秘、直腸性便秘や弛緩性便秘などがあります。
一過性単純性便秘はその名の通り、一過性にみられる単純な便秘のことを言います。たまにドカ食いしたことなどが原因となって、一時的に便秘になることがあります。
けいれん性便秘は、ストレスなどが原因で腸管がけいれんを起こし、便の通り道が狭くなるタイプの便秘です。直腸性便秘は、直腸までは便がちゃんと送られているのに、便意が脳に伝わらなくて便通が起きないタイプの便秘を意味します。
弛緩性便秘は高齢者や出産後の女性に多くみられるタイプの便秘で、筋力や腹圧の低下によって起こるタイプの便秘です。便が腸内を通過するスピードが遅く、うまくまとまらないことが特徴となっています。
便秘の種類②器質的便秘
器質的便秘とは、開腹手術のあとの腸の癒着や、腸にみられる疾患などが原因となっておこる便秘のことを言います。器質的便秘が自然に回復する可能性はほとんどないため、速やかに病院を受診することが重要となります。
便秘の種類③薬剤性便秘
薬剤性便秘はその名の通り、なんらかの薬剤を服用することによって起こるタイプの便秘を意味します。便秘を起こしてしまう薬剤としては、抗コリン薬や抗うつ薬などがあげられています。
下痢の原因
便秘とともに私たちを悩ませるのが下痢です。電車などに乗っているときの便意に、冷や汗を流したことがあるという人もいらっしゃるのではないでしょうか。では、下痢になる原因はなんなのでしょう。
下痢の原因1 飲食物
下痢になる原因としては飲食物があげられます。分かりやすい例が食当たりです。なまものを食べたり賞味期限の過ぎた食べ物を食べたりして、おなかを下してしまうことがあります。
また、冷たい飲み物をたくさん飲むことで下痢を起こすこともあります。お酒が好きな人の場合、ビールの飲みすぎで下痢を起こすなどということは、日常茶飯事かもしれません。
下痢の原因2 ストレス
ストレスがたまると胃が痛くなったり、おなかを下したりするという方もいらっしゃるのではないでしょうか。その原因として、ストレスによって自律神経のバランスの乱れることがあげられます。
先ほども紹介したとおり、自律神経は私たちの生命活動が円滑におこなわれるため、重要な働きをしてくれている神経です。
そして、自律神経のバランスが乱れると、まず粘膜に悪影響が出るといわれています。鼻の粘膜に異常が見られれば、花粉症や鼻炎などのアレルギー性疾患を起こしやすくなります。
胃の粘膜に異常が見られれば、胃が荒れたり胃痛を起こしたりすることとなります。腸の粘膜に異常が見られれば、腸の機能が低下して、下痢や便秘といった排便障害を起こしやすくなります。
便秘や下痢を繰り返すときに考えられる疾患
便秘なら便秘、下痢なら下痢といった症状が出るのは分かりやすいのですが、便秘と下痢とを交互に繰り返すような場合、なんらかの疾患が疑われることもあります。以下に、便秘と下痢とを繰り返すときに考えられる、代表的な疾患を紹介しておきます。
過敏性腸症候群
便秘と下痢とを繰り返す際に考えられる疾患として代表的なのが、過敏性腸症候群と呼ばれる疾患です。男性の場合は比較的下痢を起こす頻度が高く、女性の場合は比較的便秘を起こす頻度が高いということです。
過敏性腸症候群の原因に関しては、現代医学をもってしてもハッキリとしたことが分かっていません。レントゲンやMRIなどの画像診断をしても何の異常もみられないにもかかわらず、便秘と下痢を繰り返すといった特徴があります。
ただ、ストレス状態が昂じると、過敏性腸症候群の兆候が強く現れることから、心因性の疾患なのではないかと考えられています。
過敏性腸症候群を発症する人は年々増加してきているということですが、現代がストレス社会といわれることとも無縁ではないのかもしれません。
クローン病
便秘と下痢とを繰り返す疾患としては、クローン病といわれる疾患もよく知られています。クローン病などと聞くと、遺伝子操作によってクローンをつくるようなイメージをされる方もいらっしゃるかもしれません。
クローン病は消化管内のどこかに炎症を起こす疾患のことで、アメリカのクローン先生が発見したことからその名がつけられています。川崎病や橋本病などと同じで、人の名前が付けられているということなのですね。
クローン病の原因については、遺伝や感染症、血流障害などさまざまな説がありますが、どれも決定的と言えるほどの根拠はないということです。
潰瘍性大腸炎
便秘と下痢とを繰り返す疾患としては、潰瘍性大腸炎もあげられます。潰瘍性大腸炎になると、大腸の粘膜にただれや潰瘍がみられるようになり、便に血が混じることもあります。
潰瘍性大腸炎の原因も、過敏性腸症候群やクローン病と同様、ハッキリとしたことが分かっていません。便秘や下痢のほか、腹痛をともなうことでも知られています。
がん
大腸がんなどが原因となって、便秘を起こすこともあるということです。大腸がんは、がんによる死因のトップ3に入っており、年々増加傾向にあります。
大腸がんの特徴としては、便秘や下痢、腹痛や血便などがあげられています。早期の大腸がんは症状もないことから、たまたま検査で見つかるようなケースもあります。
便秘や下痢がある場合の対処法
便秘や下痢にはさまざまな原因があり、また、便秘や下痢がみられる疾患にもたくさんのものがあります。では、便秘や下痢がみられる場合にはどのように対処すればよいのでしょう。
様子を見る
便秘や下痢がみられる場合で、思い当たる節があるような場合はそれほど心配しなくてよいでしょう。食べすぎや飲み過ぎなどの明確な理由があれば、様子を見て経過を見守るとよいでしょう。
病院を受診する
便秘や下痢がみられる場合で、特に思い当たる節もないのに急に発症したときや、腹痛や血便をともなうとき、また、便秘や下痢を繰り返したり、長期間にわたって続いたりしている場合には、炭ウやかに医療機関を受診するようにしましょう。
自己判断はやめる
便秘や下痢の原因はさまざまですし、なんらかの疾患によって便秘や下痢が起こっている可能性もあります。便秘や下痢に限ったことではありませんが、一番やってはいけないのが、素人が自己判断することです。
特に現代は、インターネットで何でも調べられる時代になっています。ただ、どの情報が正しいのかを見極めるのは困難です。やはり、体調に異変がみられた場合は、専門医に診てもらうのが一番です。
定期健診を受けましょう
今回は、便秘や下痢の原因、便秘と下痢とを繰り返す疾患、またその場合の対処法について紹介しました。便秘や下痢は私たちにとって比較的身近なものですが、場合によっては病気によって起こることもあります。重篤な疾患にならないためにも、1年に1回は定期健診を受けるようにしてくださいね。