心臓が人間の生命活動にとって、とても重要な器官であることは、今さら説明する必要がないと思います。そのような心臓に対して、肥満が多いなるリスクファクターとなります。心臓の働きを知ることで、心疾患の怖さを知りましょう。
肥満になると、身体の各部にさまざまな悪影響が表れますが、心臓もその1つです。では、肥満になることによってどのような悪影響が心臓にもたらされるのでしょうか。また、どのような肥満によって、心臓疾患のリスクが高くなるのでしょうか。今回の記事では、肥満と心臓との関係について、詳しく見ていきたいと思います。
心臓病の種類
肥満になると、心疾患(いわゆる心臓病)になるリスクが増大するとされています。ところで、心臓病にはどのような種類があるのでしょうか。心臓病について知ることで、肥満になることがいかにリスキーかを理解しておきましょう。
1・狭心症
狭心症は、次に紹介する心筋梗塞と並んで、「虚血性心疾患」と呼ばれる心臓の病気です。心臓には、心筋に栄養を送る冠動脈と呼ばれる血管がありますが、何らかの原因によって、冠動脈の流れが悪くなることにより、虚血性心疾患を招くとされています。
血液は酸素と栄養を身体の各部に運んでおり、血液の循環が悪くなった場所には、栄養状態の低下がみられることとなります。そのような状態が心臓に起こった場合、虚血性心疾患と呼んでいる訳です。
狭心症の特徴
狭心症には大きく分けて、「労作性狭心症」「安静時狭心症」「微小血管狭心症」「不安定狭心症」の4つに分類されます。労作性狭心症は、何らかの動作にともなって現れる狭心症のことを言います。
たとえば、重い荷物を持った時に胸痛が起こったり、上り坂を歩いているとう息が苦しくなって胸が締め付けられるような感じがしたりします。胸痛ということですが、実際には首や肩、みぞおちなどが痛むこともあるということです。
重いものを持ち上げたり、坂道を上ったりするときには、身体の各部へと血液をたくさん送り出さなければなりません。そのため、心筋が頑張らなければならないのです。
ところが、心筋へと栄養を送る冠動脈が狭くなっていると、血液を十分に心筋へと届けることができません。そうなると、心筋が虚血状態になってしまい、結果として労作性狭心症が起こるのです。
安静時狭心症はその名の通り、安静時にみられる狭心症です。特に、就寝中や明け方に発作が起こりやすいという特徴があります。痛み方は労作性狭心症の場合と変わりがないということです。
微小血管狭心症は、冠動脈には狭窄が見られないのに、狭心症の発作が起こっているケースで、冠動脈以外の微小な血管に狭窄が起こっているのではないかと疑われるタイプの狭心症です。重症化することは少ないとされています。
不安定狭心症は、何らかの動作にともなって狭心症が起こるだけでなく、安静時にも狭心症が起こるようになり、その頻度が増した状態のことを言います。心筋梗塞の前触れとされており、注意が必要だということです。
狭心症の原因
狭心症の原因のほとんどは、心臓の冠動脈が固くなる(動脈硬化)ことによって起こるとされています。また、大動脈の弁膜症によって狭心症が起こったり、川崎病の後遺症として狭心症が起こったりすることもあるということです。
狭心症の治療法
狭心症の発作は通常、1分から2分程度とされており、長くても十数分だということです。発作を抑えるためには、ニトログリセリンを舌下投与(舌の下に薬を含むこと)します。
ニトログリセリンには冠動脈を拡張して、心臓の負担を減らすとともに、心筋の虚血状態を改善する働きがあります。ただし、ニトログリセリンには血圧を下げる働きもあるので、万が一、倒れてしまう場合に備えて、服用する際には座った状態でおこなうことが重要です。
また、外科的にカテーテルを用いた手術をおこなったり、冠動脈バイパス術と呼ばれる手術をおこなったりすることもあるということです。
2・心筋梗塞
心筋梗塞は狭心症と同じく、虚血性心疾患の一種です。やはり心筋へと栄養を供給する役目のある冠動脈が、何らかの原因によって狭くなることによって、発作を起こすとされています。
心筋梗塞の特徴
心筋梗塞の特徴は、昨日まで元気だったような人が突然亡くなってしまうということです。そういった意味では、狭心症よりも重症度の高い心疾患だと言えます。
冠動脈が急速に閉塞してしまうことによって、心筋が栄養をもらえなくなって壊死してしまいます。壊死した場所が増えることで心臓の機能が低下し、死に至る可能性が高くなってしまうのです。
心筋梗塞が起こる兆候としては、息苦しさや胸の痛み、冷汗やめまい、吐き気などがあげられており、そういった症状が15分以上続いた場合、心筋梗塞が疑われることとなります。
心筋梗塞の原因
心筋梗塞の根本的な原因は、狭心症の場合と同様、冠動脈に動脈硬化が起こることだとされています。
心筋梗塞の治療法
心筋梗塞の治療法としては、血栓溶解薬を投与して、血管内に詰まっている血栓を溶かしたり、カテーテル治療をおこなったり、冠動脈バイパス術がおこなわれたりします。
狭心症のようにニトログリセリンを服用してもそれほどの効果が期待できませんし、命にかかわる可能性があるので、発作が疑われるときにはただちに救急車を呼びましょう。
3・不整脈
不整脈とは、脈を打つ回数が少なくなったり、異常に多くなったりすることを言います。不整脈の中には、それほど心配する必要のない不整脈もあれば、治療が必要な不整脈もあります。
不整脈の特徴
不整脈の中で、1分間の脈拍が50回以下になる場合を「徐脈」といい、反対に、1分間の脈拍が100回以上になる場合を「頻脈」と呼んでいます。
ただ、急激な運動をした時や緊張したときなどに、一時的に脈拍が増えるケースもありますが、そのような頻脈は「生理的な頻脈」と呼ばれており、誰にでも起こりうるもので心配する必要はありません。
また、不整脈の中でも「期外収縮」といって、脈拍が不安定になるタイプの不整脈があります。これは、30歳以上になると誰にでも見られるタイプの不整脈であり、頻度がそれほど高くなければ、やはりそれほど心配する必要はないということです。
不整脈の中でも怖いのは、急に意識を失ってしまうようなタイプの不整脈です。極端な頻脈がみられるような場合、失神してしまう可能性があるということです。
反対に、極端な徐脈がみられるような場合も、心不全を起こしている可能性があります。1分間の脈拍が40回を下回り、さらに、身体を動かすときに息切れがするような場合、治療が必要なケースもあります。
不整脈の原因
不整脈の起こる原因としては、ストレスや睡眠不足、疲労や不規則な生活、加齢などがあげられており、肥満もまた、不整脈のリスクファクター(危険因子)とされています。
不整脈の治療法
不整脈の治療は近年になって目覚ましい進歩を遂げており、ほとんどの不整脈は適切な治療によって治すことが可能となっているということです。
脈拍が少なくなるタイプの徐脈を治療する場合は一般的に、ペースメーカーと呼ばれる機器を、体内にとりつける治療がおこなわれます。
極端な頻脈がみられるような場合、カテーテルを足の血管から挿入し、頻脈の原因となっている心筋の一部を焼く「カテーテルアブレーション」という治療法がおこなわれます。
こういった治療法の他にも、不整脈を改善する効果のある治療薬もあるということです。不整脈は、狭心症や心筋梗塞ほど死のリスクが高くありませんが、心配な方は早めに医療機関を受診するようにしましょう。
心臓への負担を増す肥満のタイプ
肥満にともなって何らかの病気を発症する可能性のある場合、「肥満症」と呼ばれることになります。そして、肥満症の中には、心臓への負担を増すタイプの肥満があります。
肥満細胞の質的異常による肥満
心臓への負担を増すタイプの肥満症として、肥満細胞の質的異常によって起こる肥満があげられます。肥満細胞の量的異常によっておこる肥満と区別されています。
肥満細胞の質的異常による肥満の原因
肥満細胞の質的異常による肥満は、内臓脂肪が蓄積されることによって起こります。内臓脂肪型の肥満と呼ばれることもあり、男性に多くみられるタイプの肥満です。
起こりうる疾患
肥満細胞の質的異常によって肥満した場合、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患のリスクが高まるだけでなく、脂肪肝や肥満が原因の腎臓病になるリスクも上昇します。
また、高血圧や脂質異常症(高脂血症)、耐糖能障害(2型の糖尿病など)、高尿酸結晶、痛風といったいわゆる生活習慣病になるリスクも高まります。
女性の場合、月経不順や妊娠中の合併症のリスクが高くなります。妊娠中に起こりうる合併症としては、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などがあげられています。
血液循環の仕組み
心臓に血液を送り出す働きがあることは、皆さんもご存じのことだと思います。ただ、心臓へどのようにして血液が送り返されているのかは、意外と知らないのではないでしょうか。
心臓が血液を全身に送り出す
心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋からなる、いわば「生きたポンプ」のようなものです。理科の授業で、「心房(辛抱)して心室(寝室)に入る」という風に暗記した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
心臓から送り出された血液は大動脈を通って体の隅々にまで送られ、静脈を通って心臓へと戻ってきます。この一連の流れに要する時間はわずか20秒程度だとされています。
健康状態にある人の場合、心臓が1日の間に全身に送り出す血液は、ドラム缶に換算して40本分にもなるということです。血液は全身に酸素と栄養を運んでいるので、この流れが滞った場所にトラブルが起こるという訳なのです。
全身の各部が心臓へと血液を送り返す
心臓には全身の各部へと血液を送り出す働きがありますが、静脈から心臓へと血液を戻す働きはそれほど強くありません。
そのため、全身の各部にある筋肉が収縮することで、心臓へと血液を送り返すのです。この働きのことを筋ポンプと呼んでいます。
特に、ふくらはぎの筋肉は心臓からもっとも離れた場所にある大きな筋肉であり、重力に逆らって上方へと血液を送り返さなければならない重要な筋肉です。そのことから「足は第2の心臓」と呼ばれているのです。
心臓への負担を減らすダイエット法
肥満になると、さまざまな心疾患のリスクが上昇してしまいます。心臓への負担を減らすためにはダイエットをおこなうことが重要ですが、では、どのようなダイエット法があるのでしょう。
食事制限
心臓への負担を減らすダイエット法としては、食事制限があげられます。私たちの身体は食べ物によって作られており、肥満になる人は肥満になってしまうようなものを食べているという訳なので、肥満の原因となる食べ物を制限することとなります。
肥満というと食べ過ぎによってなるものだという考え方をされている方もいらっしゃることともいますが、最近の研究によって、むしろ肥満が糖質の過剰摂取が原因だと考えられています。
糖質は体内でインスリンによって分解され、それが私たちの脳や身体のエネルギーへと変えられます。そのことから、糖質(炭水化物)はエネルギー源だといわれ、3大栄養素の1つともなっているのです。
ところが、糖質を過剰に摂取したり、食後に血糖値が急上昇したりすると、インスリンによる糖質の分解機能が追い付かなくなってしまい、結果として脂肪という形で体内に蓄えられるのです。
そのため、肥満の人は甘いものだけでなく、ご飯やパン、麺類といった主食を制限することが必要となります。
医師の指導のもと運動をする
「心臓病なのに運動をしたら、余計に病気が悪化するのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、過度の運動は心臓病の悪化を招いてしまいます。
ところが、最近の研究によって、狭心症や心筋梗塞のリスクを抱えている人であっても、適度に身体を動かすことによって、発作を起こす確率が低下する、ということが分かってきています。
基本的にはゆっくりと歩いたり、軽く泳いだりと、心臓への過度の負担は避けます。また、筋トレなどの瞬発系の運動はおこなわないようにしましょう。歩くのも、早朝や深夜は避け、気温が上がってからにしましょう。もちろん、医師の指導のもとでおこなうことが絶対条件です。
普段から心臓病になるリスクを減らす
今回の記事では、肥満が心臓に与える影響や、肥満によってリスクが高くなる心臓病について紹介しました。心臓の機能が低下すると、著しくQ・O・L(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が低下してしまいます。普段から適度に身体を動かし、心臓病になるリスクを下げておきましょう。