肥満している人の中には、「何もしていないのに太る」「食べてないのに太る」「水を飲んでも太る」などという人がいます。そんな人がよく口にするのが「遺伝だから仕方がない」という言葉。果たして、遺伝による肥満のリスクはどの程度あるのでしょうか。
世の中には実にたくさんのダイエット法があります。中でも最近になって注目されているのが、「遺伝子ダイエット」というダイエット法です。肥満になりやすい遺伝子を調べて、それに応じたダイエット法を実践するというものです。
今回の記事では、遺伝による肥満の可能性や肥満に関する遺伝子について紹介するとともに、遺伝子ダイエットのウソとホントに迫りたいと思います。
CONTENTS
肥満とは?
肥満と遺伝子との関係や、肥満は遺伝するのかどうかについて解説する前に、そもそも肥満とはどのような状態を指すのかについて説明しておきたいと思います。
太っていること
肥満とは、簡単に言ってしまえば太っている状態のことを言います。または、体重が重いことを意味します。自分が肥満にあたるのかどうかの判断は、後述する計算法で導き出すことが可能です。
必ずしも病気を意味しない
肥満というと、イメージ的に生活習慣病などの疾患を抱えているように思いがちですが、肥満状態は必ずしも病気を意味するものではありません。
医学的見地から、体重を減らすなどの治療行為が必要なタイプの肥満のことを「肥満症」と呼んでおり、単なる肥満とは区別しています。
もう少し詳しくいうと、肥満に加えて何らかの合併症を有している場合、肥満症と認定されることとなります。合併症の代表的なものは、高血圧や脂質異常症、2型の糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などです。
ただ、肥満している人の多くは何らかの合併症を発症するリスクが高いことから、このような区別は、医療分野以外では大した意味がありません。
肥満度はBMIで測定できる
自分が肥満しているかどうかは、主観的な見方ではなく、ある計算法によって算出することが可能です。その算出法のことを、BMI(ボディ・マス・インデックス)と呼んでいます。
BMIの計算法
BMIの算出法はとても簡単で、身長(m)の2乗を体重(kg)で割った数値となっています。たとえば、身長が160cmで体重が54kgであれば、[54÷(1.6×1.6)]=「21.09」ということになります。
肥満度とは
肥満にも、軽度の肥満から重度の肥満があります。先ほど算出したBMIの数値が、18.5以上で25未満であれば、その人は標準体型ということが可能です。18.5未満であれば痩せ型ということになります。
BMIの数値が25以上の人を肥満と呼んでいますが、特にBMIの数値が25以上30未満の人を1度の肥満、BMIの数値が30以上35未満の人を2度の肥満と分類し、それぞれ軽度の肥満と中等度の肥満と呼ばれています。
また、BMIの数値が35以上40未満の人を3度の肥満、BMIの数値が40以上の人を4度の肥満としています。BMIの数値が35を超えると、重度の肥満と呼ばれるようになります。
肥満に関する遺伝子
最近の研究によって、肥満に関する遺伝子の存在することが明らかになってきているようです。それでは、どのような遺伝子があると、肥満になりやすいと考えられているのでしょうか。
β3アドレナリン受容体遺伝子
日本人のおよそ3人に1人が、β3アドレナリン受容体遺伝子の働きによって、肥満しやすくなるとされています。
脂肪を燃焼させたり、脂肪の貯蓄をおこなったりするのは褐色脂肪細胞や、白色脂肪細胞の働きですが、その働きをコントロールするのがβ3アドレナリン受容体遺伝子であるといわれています。
Β3アドレナリン受容体遺伝子が脳内の神経伝達物質の一種であるノルアドレナリンと結合することによって、褐色脂肪細胞や白色脂肪細胞内にある脂肪から遊離脂肪酸を取り出し、それを燃焼させて熱を産生するのです。
つまり、β3アドレナリン受容体遺伝子には脂肪細胞から脂肪を取り出し、それを燃焼させる働きがあるため、そもそもは肥満を予防するために働いてくれるわけです。
ところが、β3アドレナリン受容体遺伝子はそのタイプが人によって異なっています。そのため、人によってはβ3アドレナリン受容体遺伝子の働きによって、むしろ太りやすくなることがあるということなのです。
太りやすいタイプのβ3アドレナリン受容体遺伝子を持っている人の場合、通常のβ3アドレナリン受容体遺伝子を持っている人より、基礎代謝量が200キロカロリー低いことが分かってきています。
つまり、同じ食事をしていても、太りやすいタイプのβ3アドレナリン受容体遺伝子を持っていれば、必然的に肥満になりすいということなのです。
太りやすいタイプのβ3アドレナリン受容体遺伝子を持っている人の太り方は、「リンゴ型」といわれており、内臓脂肪が付着しやすいことから、男性に多くみられるタイプの肥満だといわれています。
アンカップリングプロテイン遺伝子
アンカップリングプロテイン遺伝子は「UCP-1遺伝子」ともよばれており、肥満している日本人のおよそ4人に1人が、アンカップリングプロテイン遺伝子由来の肥満だとされています。
β3アドレナリン受容体遺伝子由来の肥満がリンゴ型といわれるのに対し、アンカップリングプロテイン遺伝子由来の肥満は「洋ナシ型」といわれています。
洋ナシの形のように下半身に脂肪がつきやすく、皮下脂肪が付着しやすいことから、女性に多くみられるタイプの肥満とされています。
β2アドレナリン受容体遺伝子
β2アドレナリン受容体は心臓や気管支平滑筋、脂肪細胞などに分布しているたんぱく質の一種で、刺激が加わることによって心臓を拍動させたり、気管支を拡張させたりするということです。
日本人の6人に1人ほどが保有しているとされ、この遺伝子を持っていると基礎代謝が高くなることから、逆肥満遺伝子などと呼ばれることもあります。ほっそりした体型をしているため、「バナナ型」と呼ばれることもあります。
ただし、β2アドレナリン受容体遺伝子を持っていると、脂肪も分解されるのですが、タンパク質も分解されやすくなることが分かっています。つまり、筋肉量が減少しやすいのです。
筋肉量は基礎代謝と密接に関わっているため、若いうちは太らなくても、年齢を重ねるごとに太りやすく、なおかついったん太ると痩せにくいという特徴もあります。
遺伝子ダイエットのウソ!ホント?
肥満に関する遺伝子を紹介しましたが、自分がどのタイプの遺伝子を持っているのかをチェックして、それに応じたダイエットをするための「遺伝子ダイエット」と呼ばれるダイエット法が人気となっています。でも、本当に遺伝子を検査することで痩せることができるのでしょうか。
遺伝子ダイエットってなに?
遺伝子ダイエットは、遺伝子を検査することによって、自分がどのタイプの肥満なのかを分析し、それに応じた効果的なダイエット法を提案されるというものです。
病院やクリニックで検査してもらう方法もあれば、簡易キットを購入して頬の内側の細胞を採取し、それを送付して検査してもらうという方法もあります。
β3アドレナリン受容体遺伝子由来の肥満(リンゴ型)であれば内臓脂肪型の肥満だということなので、内臓脂肪を減らすための食習慣や運動などが提案されることとなります。
β3アドレナリン受容体遺伝子が原因となって肥満している人におススメのダイエット法としては、有酸素運動による脂肪燃焼や、低糖質ダイエットによる肥満予防があげられています。
β2アドレナリン受容体遺伝子が原因で肥満している場合(洋ナシ型)、皮下脂肪がたまる傾向があるため、脂質の摂取量を制限することが推奨されています。また、筋トレやストレッチを奨められることもあります。
アンカップリングプロテイン遺伝子を持っている人は、もともとは太りにくいとされているのですが、いったん太ってしまうと、なかなか痩せられないという特徴があることから「隠れ肥満」などと呼ばれることもあります。
一見太って見えないのですが、筋肉量も少なくなってしまうため、太り始めると基礎代謝の低下と相まって、ダイエットをしても効果が出にくくなってしまいます。
アンカップリングプロテイン遺伝子による肥満の場合、筋力の低下を防ぐため、筋力トレーニングをおこなうとよいとされます。
遺伝子ダイエットのメリット
遺伝子ダイエットのメリットとしては、自分がなぜ太っているのかを医学的に証明されることから、安心感を得られるということがあげられます。
実際に、病院やクリニックで遺伝子検査をしてもらって、「あなたはこの遺伝子のせいで肥満しているのです」と医師にいわれれば「ああ、そのせいだったのか」と納得できるというものですよね。
また、遺伝子ダイエットのメリットとして、検査料がそれほど高くないということもあげられます。簡易キットを用いる検査法の場合、5,000円程度でおこなうことも可能となっています。
遺伝子ダイエットのデメリット
遺伝子ダイエットのデメリットとしては、医学的根拠に乏しいということがあげられます。「病院やクリニックでおこなっているのになぜ?」と思われるかもしれませんが、実は肥満に関する遺伝子は60種程度あると考えられているのです。
そのため、わずか数種類の遺伝子を検査したところで、正確にその遺伝子のせいで肥満していると結論付けるには無理があるのです。
また、遺伝子ダイエットの結果としてアドバイスされるのは、いずれも食事制限をともなうダイエット法です。誰にでも通用するダイエット法なのであれば、わざわざ遺伝子を検査する意味がないというものですよね。
遺伝による肥満の確率は?
遺伝による肥満の確率は研究者によっていろいろなことがいわれていますが、一般的には遺伝が3割から4割で、あとの残りは生活習慣だと考えられています。
「親が肥満しているから自分も肥満している」という事実を遺伝のせいにするのは楽ですが、生活習慣や食習慣の方がリスクファクターとして重要だということを忘れないようにしましょう。
肥満の改善法
最後に、肥満の改善法について紹介しておきたいと思います。病気などの特殊な例を除けば、以下の方法で必ず肥満を改善することが可能となっています。
糖質制限
最近の研究によって、脂肪が付着するのは食べ過ぎが原因ではなく、糖質の過剰摂取が原因である、ということが分かってきています。
糖質を摂取すると、すい臓にあるランゲルハンス島という器官からインスリンが分泌され、糖質を分解して脳や身体のエネルギーへと変えてくれます。糖質がエネルギー源だといわれるのはそのためです。
ところが、糖質の摂取量が多すぎたり、食後に血糖値が急上昇したりすると、インスリンによる糖質の分解が追い付かなくなってしまいます。
インスリンによって分解しきれなかった糖質は、予備のバッテリーとして細胞内に蓄えられることとなります。それが肥満してしまう原因だということが分かってきているのです。
そのため、肥満の改善や予防をするのであれば、糖質の摂取量を制限する必要があります。とは言うものの、糖質はエネルギー源でもあるので、まったく摂らないというダイエットはやめましょう。
有酸素運動
肥満している人には、たくさんの体脂肪が付着しています。そして、体脂肪を燃焼させるためには有酸素運動がもってこいです。
有酸素運動後は、ウォーキングやジョギングのように、軽度から中等度の負荷を筋肉に与えつつ、長時間にわたっておこなう運動のことを言います。
有酸素運動を開始すると、まずは血液中の糖質が燃焼し、運動エネルギーへと変えられます。そして、糖質を使い果たすと体脂肪の燃焼が始まり、運動エネルギーへと変えられるのです。
有酸素運動を開始してからおよそ20分で血液中の糖質を使い果たすといわれているので、有酸素運動をおこなう際には、20分以上運動するとよいでしょう。
肥満しすぎて走ったり歩いたりするのがしんどいという方でしたら、水中ウォーキングがおススメです。水の中は浮力があるため、膝や腰といった場所にかかる負担を減らすことができます。
また、水の抵抗があることから、効果的にカロリーを消費することも可能となっています。身体を冷やさないように気をつけて、取り組んでみてはいかがでしょうか。
生活習慣から改めましょう
肥満と遺伝子の関係について見てきましたが、いかがだったでしょうか。確かに、太っている人に特徴的な遺伝子はあるようですが、それ以上に生活習慣や食習慣の方が肥満の原因となるようです。肥満の改善や予防のためには、まず生活習慣を改めるところから始めましょう。