便秘になると不快なだけでなく、肌荒れや吹き出物などさまざまなトラブルが現れます。イレウスもその1つですが、便秘とイレウスにはどのような関係があるのでしょう。
便秘の方はたくさんいますが、病院で本格的な治療をおこなうことが必要になるような便秘もあります。中でも、イレウスを引き起こす可能性のあるような便秘は、早急に医療機関を受診することが重要です。今回の記事では、便秘とイレウスとの関係について解説するとともに、便秘によるイレウスの危険性についても見ていきたいと思います。
イレウスってなに?
便秘とイレウスとの関係について説明する前に、まずはイレウスとはどのような疾患なのかについて見ていきたいと思います。
腸閉塞のこと
イレウスは、日本語では「腸閉塞(ちょうへいそく)」と訳されています。一般的には、何らかの理由によって、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が障害されることによって起こるとされています。
腸閉塞ではないイレウスもある?
日本では、かつてより腸閉塞とイレウスを同じ疾患として扱ってきましたが、両者を分けて考える動きも出てきているようです。
急性腹症診療ガイドライン出版委員会が2015年に出した「急性腹症診療ガイドライン」によると、腸閉塞とはその名の通り、腸が閉塞している状態のことを指します。
一方、イレウスの方は、腸管が麻痺することによって腸の蠕動運動が低下し、結果として閉塞部位より上に消化物がたまってしまい、それによってさまざまな弊害が現れるとされています。
つまり、腸管が閉塞していなかったとしても、腸管内に消化物の通過障害が見られるのであれば、それはイレウスだということになる訳です。
イレウスの種類
イレウスにはいくつかの種類があります。便秘によるイレウスは頻度こそ少ないものの、発症してしまうと最悪の場合、命にかかわることもあります。では、イレウスの種類について見ていきましょう。
機械的イレウス
機械的イレウスは、外的な要因による腸管の圧迫や、がんや腫瘍、胆石などによる腸管の物理的狭窄、消化に悪いものの大量摂取や、誤って異物を飲み込むことなどが原因となっておこるタイプのイレウスです。
単純性イレウス
単純性イレウスは、大腸がんや開腹手術にともなう腸管の癒着などが原因となっておこるタイプのイレウスで、腸管に血行障害がみられないという特徴があります。
複雑性イレウス
複雑性イレウスは絞扼性(こうやくせい)イレウスとも呼ばれており、腸管が閉塞することによって、腸への血液循環が断たれる、非常に危険なタイプのイレウスです。
複雑性イレウスは、腸捻転や腸重積(ちょうじゅうせき、回腸が大腸内に入り込むこと)、絞扼性ヘルニアなどが原因となっておこります。
腸管への血流が断たれた状態を放置してしまうと、わずか6時間で腸管の壊死が始まるということです。腸管が壊死すると、やがて腸管が破裂し、ショック症状や腹膜炎をおこすこととなります。
機能的イレウス
機能的イレウスは、腹膜炎による腸管の運動麻痺や、開腹手術後の腸管の機能低下、回虫や鉛中毒によって起こる腸管のけいれんが原因となっておこります。
麻痺性イレウス
麻痺性イレウスは、腹腔内における出血や腹膜炎、子宮外妊娠などが原因となって、腸の蠕動運動が弱くなることで発症するタイプのイレウスです。
腸管自体には器質的な異常がみられず、上記のような原因で便を先へ先へと送ることができなくなって発症します。
けいれん性イレウス
けいれん性イレウスも麻痺性イレウスと同様、腸管自体には器質的な異常を認めません。中毒や神経衰弱、胆石症や虫垂炎などが原因となって、腸管が痙攣することによって発症します。
糞便性イレウス
糞便性イレウスはその名の通り、糞便が腸管内にたまることによって起こるタイプのイレウスです。便秘が長期にわたって継続すると、腸管自体が拡張してしまい、次第に便意を感じにくくなってしまいます。
また、大腸には便から水分を吸収する働きがあるため、長期にわたって腸管内にとどまった便からはさらに水分が吸収されて、カチカチの便になってしまい、ますます排出するのが困難となります。
固くなった便によって腸管が傷つけられると、腸管に穴があいたり、潰瘍ができたりすることもあります。また、大腸が壊死することによって、ショック症状を発したり、腹膜炎を起こしたりすることもあります。
イレウスの症状
イレウスの症状としては、おなかの痛みや吐き気、嘔吐、ガスがたまる、便通がなくなる、お腹が張った感じがする、顔色が青白くなるなどといったことがあげられます。
お腹の痛みに関しては、イレウスの種類によって程度が異なるということです。また、イレウスによる吐しゃ物は、次第に便のような臭いを帯びてくるという特徴があります。
便秘によるイレウスの危険性
便秘が継続することによってイレウスにまで至ることは極めてまれなケースだということですが、過去に例がないわけではありません。では、便秘によるイレウスには、どのような危険性があるのでしょう。
便秘によるイレウスの危険性その1・腸管への圧迫
便秘によるイレウスの危険性としては、腸管への圧迫が強くなるということがあげられます。先ほども少し触れましたが、大腸には消化物の水分を吸収するという働きがあります。
私たちが食べたものは、唾液や胃液、胆汁や膵液によって消化され、ドロドロとしたおかゆ状になって小腸へと送られます。小腸では主に栄養素の吸収がおこなわれます。
栄養素の吸収が終わると、ドロドロの消化物は大腸へと送られます。大腸で水分が吸収されることにより、便が形成される訳なのです。
大腸でしっかりと水分が吸収されなければ下痢便になりますし、大腸内に長くとどまることで水分が吸収されすぎると便秘になるということなのです。
便秘にもいろいろな種類がありますが、直腸性便秘と言って、便を排出することが困難になるタイプの便秘があります。日本消化器病学会では、そのような便秘のことを排出困難型の便秘とカテゴライズしています。
直腸性便秘の特徴は、便自体は肛門の手前にある直腸へと送られているにもかかわらず、便意が脳に伝わらなくなることによって、便が排出できなくなるということです。
直腸性便秘は「習慣性便秘」とも呼ばれており、排便習慣が大きな要因となっています。簡単に言うと、便意を感じたときに排便をしないことで、便意が喪失してしまい、結果として便秘になってしまうのです。
わざと便意を我慢するようなことはあまりないと思うのですが、便意を感じたときにたまたま汚い公衆便所しかなくて我慢したとか、接客業でなかなか自由にトイレに行けないとか、朝忙しくてトイレタイムが十分に取れないなど、理由はさまざまです。
直腸内に便がたまっている状態で食事をすると、さらに大量の便が直腸内に蓄えられることとなります。排便をしないとさらにたまった便が固くなるという悪循環に陥る訳ですね。
便秘によるイレウスの危険性その2・最悪の場合死亡することも
便秘によるイレウス自体がそれほど多いわけではありませんが、便秘によるイレウスが原因で死亡した例も、数は少ないですが存在しています。事例を1つ紹介しておきたいと思います。
1998年に奈良県に住む21歳の若い女性が、便秘が原因と思われるイレウスによって死亡するという悲しいニュースがありました。
亡くなった女性は、身長が158cmで体重が47.6kgだったということなので、どちらかというと華奢な方でしたが、亡くなったときには腸内になんと6.7kgもの糞便がたまっていたということです。
また、肛門の手前にある直腸には、水分を全く含まないコンクリートのように固い便が、10cmにわたって詰まっていたということです。
大量にたまった便が腐敗することによって、有害なガスが発生し、亡くなったときにはお腹が妊婦さんのように大きくなっていたということです。
女性はなくなる1年以上も前から市販の便秘薬を用いていたということですが、市販の便秘薬を常用すると、薬に対する耐性ができてしまい、かえって便秘が悪化することもあります。
残念な話ですが、亡くなった女性は市販の便秘薬を服用するだけで、医療機関を受診することはなかったということです。
繰り返しになりますが、このような事例は極めてまれです。ただ、たかが便秘と侮っていると、思わぬ事態を招く可能性があるということを忘れないようにしてくださいね。
便秘でイレウスにならないためにはどうしたらいい?
便秘でイレウスになると、思いもよらぬ弊害を招いてしまうこともあります。では、便秘でイレウスにならないためには、どのようなことに気をつけるとよいのでしょうか。
便秘にならないようにする
便秘でイレウスにならないようにするためには、そもそも便秘にならないようにするのが一番です。また、現在進行形で便秘の人は、医療機関を受診して、まずは便秘を改善することが重要です。
便秘薬を使いすぎない
病院で処方される便秘薬にはいろいろなものがありますが、中でも刺激性下剤を長期にわたって服用すると、腸管自体が拡張してしまい、便意が起こりにくくなるとされています。
市販の便秘薬にも、同じような現象の見られるものがあります。また、市販の便秘薬を常用していると、徐々に薬の効果が表れにくくなります。
そうなると、さらに多量の便秘薬を服用したり、より効果の強い便秘薬を服用したりすることとなり、長い目で見ると便秘をさらに悪化させることにつながります。
市販の便秘薬には、気軽に用いられるというメリットがありますが、上記のようなデメリットもあります。長期間にわたって便秘が続いている場合には病院を受診して、医師の指導のもとで便秘薬を服用するようにしましょう。
便秘の種類と対処法
便秘にはいろいろな種類があり、それぞれに応じた対処法が必要となります。では、便秘にはどのような種類があり、どんな対処をすればよいのでしょう。
弛緩性便秘の場合
病気や腸管の形態異常によって起こる便秘のことを器質性便秘といいますが、私たちが一般的に「便秘」という場合には、機能性便秘を指すことがほとんどです。そして、機能性便秘の1つに、弛緩性便秘と呼ばれるものがあります。
弛緩性便秘は、出産後の女性や高齢者に多くみられるタイプの便秘で、筋力の低下などが原因で、腹圧が低下することによって起こります。
腹圧が低下すると、腸の蠕動機能が弱くなってしまい、便を先へと送る働きが低下してしまうからです。弛緩性便秘の場合、便が途切れがちになり、便の太さも細くなってしまいます。
弛緩性便秘を改善するためには、適度に身体を動かすことが重要です。また、不溶性の食物繊維をたくさん摂取するように心がけるとよいでしょう。
けいれん性便秘の場合
機能性便秘の中には、けいれん性便秘と呼ばれるものもあります。けいれん性便秘は、おもにストレスが原因となっておこるとされています。では、なぜストレスがたまることで便秘になってしまうのでしょう。
ストレスは私たちの心身にさまざまな影響を与えますが、それは、ストレス状態が続くことによって自律神経のバランスが乱れてしまうからなのです。
自律神経は、私たちが特に意識をしなくても、勝手に働いてくれている神経のことをいいます。血液を循環させたり血圧を調節したり、血糖値をコントロールしたり、体温を調節したりといったことは、すべて自律神経の働きによっておこなわれています。
腸管の働きも自律神経によって支配されているため、ストレスによって自律神経のバランスが乱れると、便秘や下痢といった排便障害が起こりやすくなるのです。
男性の場合は自律神経のバランスが乱れることで、下痢になるケースが多いようなのですが、女性の場合は便秘になるケースが多いということです。
けいれん性便秘の原因はストレスなので、ストレスを除かないことにはなかなか治療効果が上がってきません。まずはストレス解消を目指しましょう。
直腸性便秘の場合
直腸性便秘については先ほど述べましたので、対処法だけ紹介したいと思います。直腸性便秘は習慣性便秘とも呼ばれており、排便習慣が大きな要因となっています。
便意を感じたときにトイレにいけるよう、朝は余裕を持っておきましょう。また、便秘が続くようなら病院で診てもらいましょう。
便秘はすみやかに改善しましょう
便秘とイレウスとの関係について見てきましたが、いかがだったでしょうか。極めまれなケースではあるものの、死亡に至ることもあるということなので、たかが便秘と侮らず、病院を受診して根本的に解決するようにしてくださいね。