便秘のタイプはこれまで、機能性便秘や器質性便秘、薬剤性便秘などに分類されていました。ところが、近年の研究によって、腸の形状に異常がみられることによって、便秘を発症するケースがあることも分かってきています。便秘外来とあわせて紹介していきたいと思います。
医療の進歩や病気の細分化にともなって、現代ではさまざまな専門外来ができています。便秘に関しても同様で、さまざまな便秘のタイプに応じた幅広い対応ができるよう、便秘を専門に扱う便秘外来を設けている病院が増えてきています。では、便秘外来はどのようなところなのでしょう。
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便秘外来ってなに?
医学の進歩にともなって、病気もより細分化されてきています。そして、細分化された病気に対して、より専門的な治療をおこなうため、病院の各科の下に外来の設置されるケースが増えてきています。では、便秘外来とはどのような場所なのでしょうか。
外来の一種
便秘外来は、外来の一種です。外来という言葉が病院や診療所で使われる場合、専門外来のことを意味します。また、入院患者とは反対に、外部から病院に来る患者さん(外来患者)のことを指すこともあります。
専門外来は特定の疾患をより詳しく診療するために設けられており、通常は病院の各科の下に専門外来が設けられることとなります。
たとえば、耳鼻科の下であれば、めまいの専門外来や、補聴器の専門外来などがあります。呼吸器かであれば、いびきの専門外来や、睡眠時無呼吸症候群の専門外来があります。
では、便秘外来はどの科の下に設置されているのでしょうか。一般的に便秘外来は、消化器内科や肛門科、外科などに設けられていることが多いようです。
便秘外来での治療法
便秘外来ではまず、その人がどのタイプの便秘なのかについて診断をし、その人に合った便秘の改善法が提案されることとなります。
便秘外来での治療の流れは、まず問診をおこなってどのような症状に悩まされているのかを聞き取ります。排便の回数や排便後の残便感の有無、いつごろから便秘に悩まされているのか、便秘にともなって出血がみられないかなどを詳しく聞きとっていきます。
さらに、今までどのような病気にかかったことがあるのか、お腹を開くような手術をしたことがあるのか、どのような生活を送っているのかなども詳しく聞きとります。
あと、便秘を誘発するような治療薬を服用していないかも確認します。たとえば、パーキンソン病の治療薬や抗うつ薬、利尿剤や降圧剤などを用いている場合、便通の滞る場合があるからです。
そのようなことを聞き取ったうえで、治療方針が決まることとなります。次の項で詳しく解説しますが、器質的便秘であれば、便秘の元となる病気の治療が最優先されることとなります。
便秘のタイプ
便秘はそれほど珍しいものではありませんが、一口に便秘と言ってもいろいろなタイプがあります。そこで、主な便秘のタイプを以下に紹介しておきたいと思います。
タイプ1 機能性便秘
私たちが通常「便秘」という言葉を使う場合、一般的には機能性便秘のことを指すケースがほとんどのように思われます。機能性便秘には、以下のようなものがあります。
〈弛緩性の便秘〉
弛緩性の便秘は、出産後の女性や高齢者によくみられるタイプの便秘です。腹圧の低下や筋力の低下が原因で腸の蠕動(ぜんどう)が弱くなってしまい、便がスムーズに肛門の手前にある直腸まで送られなくなってしまいます。
蠕動が弱いことから便がなかなかまとまらず、排便された便は連続性のない、とぎれとぎれの便になるという特徴があります。
〈けいれん性の便秘〉
けいれん性の便秘は日本人に多くみられるタイプの便秘で、過度の緊張によって大腸も緊張してしまい、それによって便の通り道が狭くなることによって、便秘へと至ります
けいれん性の便秘はストレスが原因となっておこると考えられています。便の特徴としては、ウサギのフンのようにコロコロとした固い便になるということがあげられています。
〈直腸性の便秘〉
直腸性の便秘は、弛緩性の便秘やけいれん性の便秘とは異なり、肛門の手前にある直腸までは便がちゃんと送られるものの、便意がうまく脳に伝わらないことによって起こる便秘です。
直腸性の便秘は、便秘薬や浣腸などを利用しすぎることによって、自然な便意が起こらなくなることによって発生します。
便秘薬を使わないと排便できなくなるようになるだけでなく、便秘薬を常用することで身体に耐性ができてしまい、便秘薬が効かなくなることもあります。
過去には、直腸性の便秘が極端に進行してしまい、死亡してしまったという事案も発生しています。安易に便秘薬に頼るのは考えた方がよいでしょう。
タイプ2 器質性便秘
器質性便秘は、腸に何らかの障害が発生することによって起こるタイプの便秘です。大腸がんなどの病気や、開腹手術後の腸の癒着などが原因となって、器質性便秘になります。器質性便秘は機能性便秘とは異なり、前提となる病気の治療が最優先されることとなります。
ねじれ腸や落下腸が便秘の原因に!?
近年の研究によって、腸のねじれや落下がみられる場合、便秘になりやすいことが分かってきています。では、ねじれ腸や落下腸とはどのような腸の状態を指すのでしょうか。
ねじれ腸とは?
ねじれ腸とはその名の通り、腸がねじれてしまうことによって便の通り道が狭くなってしまい、そのせいで便が詰まってしまうタイプの便秘を意味します。
現在のところ、医学的に腸の形状を分類するような評価基準は存在しないため、一部の医師によって便宜的にねじれ腸という言葉が用いられています。
ねじれ腸の特徴としては、腸管が狭くなっているため、排便時に痛みを感じること、排便にともなってそのような痛みがなくなってしまうこと、また、便がバナナのような形状をしていないことがあげられています。
ねじれ腸かどうかを判断する基準としては、子供の頃から便秘があったかどうか、また、便秘にともなって腹痛がみられることがあるかどうか、便秘の後に下痢になったことがあるかどうか、運動不足になると便秘になるかどうかなどがあげられています。
上記の4つの項目のうち、2つ以上を満たしている場合、ねじれ腸による便秘である可能性があるということです。
とある便秘外来では、特別なストレスがないにもかかわらず、過敏性腸症候群に似た症状がみられる場合、腸の形態に異常がみられるということを報告しています。
そして、そのようなねじれ腸に対して、適切な運動をアドバイスしたり、マッサージをおこなったりすることによって、その多くが改善するとされています。
ねじれ腸や落下腸に関しては、テレビの健康番組や情報番組などで紹介されたことがあるので、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
落下腸とは?
落下腸もねじれ腸と同様、医学用語という訳ではなく、テレビで放映される際に便宜上つけられた名前です。落下腸とは、骨盤内に大腸が落ち込んでしまうタイプの腸の形状を指します。
ねじれ腸をテレビで取り上げたところ大変な反響があり、それまで腹痛をともなう便秘に悩まされていた人の多くが、ねじれ腸を改善するマッサージをすることによって、自力で便秘から逃れることができたということです。
ところが、ねじれ腸をマッサージやエクササイズで改善することをおこなっている便秘外来では、その後の受信者の80%が落下腸によって便秘になっている人へ変わってきたということです。
これは、マッサージやエクササイズによってねじれ腸による便秘の人の受診が減少し、その分だけ落下腸による便秘の人の受診が増えたことによって起こったと考えられています。
私たちの身体にはさまざまな「膜」があります。目であれば結膜がありますし、筋肉には筋膜が、腱には腱膜があり、臓器は粘膜で覆われています。そして、お腹には腹膜という膜があります。
通常、上行結腸や下行結腸といわれる、身体の左右を上下に走っている大腸は、後腹膜に埋まるような形で固定されており、それによって安定して便を直腸へと送ることが可能となっています。
ところが、落下腸の人を見てみると、後腹膜による固定がみられず、腸間膜と呼ばれる膜でしか支えられておらず、それによって骨盤内へと腸が落ち込んでしまうことで便秘になると考えられているのです。
落下腸の人の特徴としては、特別太っているわけでもないにも関わらず、下腹部だけがぽっこりと出ているといったことがあげられます。また、単に太っていて下腹部が出ている人とは異なり、落下腸の人は、逆立ちをした場合、大腸が正常な位置に戻るとされています。
便秘の改善法
便秘にはさまざまな原因があり、またいろいろなタイプがあります。さらに、近年の研究によって、ねじれ腸や落下腸といった腸の形態が便秘につながることも分かってきています。では、便秘はどのように改善するとよいのでしょうか。
病院を受診する
便秘の改善法として真っ先にあげられるのが、病院を受診するということです。なぜなら、便秘の原因は実にさまざまであり、特に長期にわたる便秘の場合、たくさんのリスクファクターが複雑に絡み合って便秘へと至っていることがほとんどだからです。
なぜ便秘外来という専門外来ができるようになったかというと、一口に便秘と言っても、実にさまざまなタイプの便秘があるからです。
単に食習慣が原因で便秘になっている人もいれば、日常のストレスが原因となって便秘になっている人もいます。また、病気が原因の便秘や、病気を治すための医薬品が原因で便秘になっている人もいます。
こういった便秘について、何が原因となっているのかを特定するのは、素人にはまず無理だと言ってよいでしょう。そのため、便秘に関するプロフェッショナルに、まずはなにが原因となっているのかを見極めてもらうことが重要なのです。
先ほど紹介したねじれ腸や落下腸に関しても、巷ではさまざまなエクササイズやマッサージが紹介されています。
ただ、医師による診察を受けた上で、自分に合ったエクササイズやマッサージをおこなわないと、効果がないだけでなく、かえって便秘を悪化させてしまう可能性もあります。
「餅は餅屋」などといいますが、便秘もやはりまずは消化器内科や便秘外来などの専門機関で診てもらうのが一番ですよ。
生活習慣を見直す
便秘には実にさまざまな原因があり、それによっていくつかのタイプに分けられています。ただ、どのようなタイプの便秘であっても、生活習慣の見直しは絶対に必要となります。
たとえば、弛緩性の便秘は運動不足や筋力の低下にともなう、腹圧の低下が原因で起こるということでした。また、ねじれ腸による便秘も、運動による改善効果がみられるとされています。
運動不足になると、全身の血液循環が悪くなってしまいます。血液は全身に酸素と栄養を送っていることから、血行が悪くなった場所には、栄養状態の低下がみられることとなります。
胃腸の栄養状態が低下すれば、胃の消化機能が低下して、胃もたれを起こしたり、十分に消化できないまま腸へと食べたものを送り出したりすることとなります。十分に消化できていないものが腸に送られてしまうと、必然的に便秘になる安くなるという訳です。
また、腸への血流が滞ることによって腸の機能が低下し、便を直腸へと送る機能にも異常を生じさせてしまいます。
およそ私たちの身体にみられるトラブルに関して、血行がかかわっていないことはほとんどありません。血行が悪くなった所に、症状は発生するものなのです。
食習慣を見直す
便秘の原因としては食習慣もあげられます。なぜなら、私たちの便は、私たちの食べたものの「残りカス」のようなものだからです。そのため、私たちが食べたものによって、便の状態も左右されます。
弛緩性の便秘がみられるような場合、食物繊維を多く摂るようにしましょう。特に、不溶性の食物繊維には、便の嵩を増して腸管を刺激し、便意を促進するという働きがあります。
また、直腸性の便秘で便が硬くなっているような場合、不溶性の食物繊維ではなく、水溶性の食物繊維を多く摂取するようにしましょう。ヨーグルトなど、乳酸菌系の食べ物も便秘の改善に効果的ですよ。
便秘外来を受診してみませんか?
今回は便秘外来について見てきましたが、いかがだったでしょうか。便秘外来ができたことによって、さらに便秘の原因が細分化され、効果的な治療ができるようになってきています。
これまで何をしても便秘が治らなかったというような方は、一度、便秘外来を受診してみてはいかがでしょうか、きっと今までと違った治療法を提案してくれると思いますよ。