便秘はあまり愉快なものではありませんが、吐き気はもっと不愉快なものです。その両者が同時に現れる場合、身体にどのような変調が表れているのでしょう。今回は、便秘にともなう吐き気から考えられることについて紹介したいと思います。
便秘に悩まされている方はたくさんいますが、そのうえ吐き気まで見られるような場合、何か身体の中で異変が起こっているのでしょうか。今回の記事では、便秘にともなって吐き気がみられる場合に考えられることや、その際の対処法についても紹介したいと思います。
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吐き気をともなう便秘その1・痙攣性便秘
それでは早速ですが、吐き気をともなう便秘について見ていきたいと思います。まずは、便秘の中でも吐き気をともなうことで知られている痙攣性の便秘から紹介したいと思います。
痙攣性便秘とは?
弛緩性の便秘は筋力の低下や腹圧の低下などが原因で起こるとされており、出産後の女性や高齢者などにみられやすいタイプの便秘として知られています。
直腸性の便秘は、肛門の一歩手前にある直腸までは便が送られるにもかかわらず、便意が脳へとうまく伝わらないために、排便が困難になるタイプの便秘を意味します。
直腸性の便秘が起こる原因としては、便意が生じたときにたまたまトイレがなくて排便を我慢したり、朝に十分なトイレタイムが取れなかったりすることがあげられています。そのため、直腸性の便秘は習慣性の便秘と呼ばれることもあります。
痙攣性便秘は、弛緩性の便秘とは反対に、腸管が緊張しすぎることによって便の通り道が狭くなってしまい、それによって排便が困難になるタイプの便秘を意味します。では、痙攣性便秘はどのような原因で起こるのでしょうか。
痙攣性便秘の原因
痙攣性の便秘が起こる主な要因はストレスだとされています。ストレスというと、人間関係の悩みは仕事上のトラブル、家庭内の不和といった精神的なストレスをイメージしがちですが、痙攣性便秘の原因となるストレスは精神的ストレスだけに留まりません。
たとえば、睡眠不足や疲労の蓄積、暑さ寒さといった気症状件の変化、ハウスダストや花粉、動物の毛といったアレルゲン、タバコの煙や排気ガスなどといった身体的ストレスも、痙攣性便秘の原因となるストレスに含まれます。
何にストレスを感じるのかは人それぞれであり、花粉がだめだという人であっても、タバコの煙は大丈夫という人もいます。
痙攣性便秘のもう1つの原因としては、便秘を解消するために用いる便秘薬(下剤)や浣腸の使い過ぎもあげられます。
便秘薬や下剤を使うことが習慣化すると、自分で排便をしようとする意欲が起きなくなってしまい、それによって便秘になってしまうこともあるということです。
吐き気をともなう便秘その2・逆流性食道炎
便秘にともなって吐き気が現れる疾患としては、逆流性食道炎もあげられます。逆流性食道炎というと中高年以降にみられる疾患のようなイメージがあるかもしれませんが、最近では若い人の罹患者も増えています。
逆流性食道炎とは?
胃からは強い酸性を占める胃液が分泌されますが、胃には胃液から身を守るための粘膜があります。ところが、食道には胃酸から身を守れるほどの粘膜がないため、胃液の逆流によって傷つけられてしまうのです。
逆流性食道炎はかつて、日本人にはあまりみられない疾患でした。ところが、高度経済成長期以降、日本人の食習慣が欧米化するにつれて、日本人にも逆流性食道炎の患者さんが増えてきたということです。
逆流性食道炎を発症した場合の症状としては、呑酸(どんさん)といって、酸っぱい感じのする液体が喉元まで上がってくるということがあげられます。
また、胃液や胃の内容物が逆流することによって胸やけがしたり、胸のあたりに痛みを生じたりすることもあります。さらに、逆流した胃液や胃の内容物が気管支を刺激することによって、喘息に似た疾患が現れることもあるということです。
逆流した胃液や胃の内容物が喉や口の中にまで至った場合、喉に痛みを生じたり、口内炎ができたり、声がかすれたり、食べ物を飲み込みづらくなったりすることもあるということです。
ちなみに、胃液や胃の内容物の逆流は認められるものの、食道などに炎症を起こしていないタイプの逆流性食道炎もあり、そのような逆流性食道炎のことを非びらん性胃食道逆流症とよんでいます。
逆流性食道炎の原因
下部食道括約筋の働きが低下する原因としては、食習慣や加齢、姿勢や肥満、その他の疾患を有していることなどがあげられます。
日本人はもともと、玄米や魚を中心とした栄養価の高い、内臓への負担が少ない食生活をしていましたが、高度経済世長期以降、カロリーの高い食事や脂っこい食べ物を好むようになり、食習慣が欧米化してきているとされます。
脂肪分の多い食事を摂取すると、十二指腸からホルモンの一種であるコレシストキニンが分泌され、胃液や胃の内容物の逆流を防止している下部食道括約筋の働きが低下すると考えられているのです。
魚を中心とした食生活から、肉食を中心とした食生活に移行することによって、現代人はタンパク質を過剰に摂取する傾向があります。
タンパク質の消化には時間がかかるため、胃での滞在時間が長くなるとされており、必然的に逆流性食道炎になるリスクも高くなってしまうという訳なのです。
加齢もまた、逆流性食道炎の原因としてあげられています。年をとると単純に、胃液や胃の内容物の逆流を防止している下部食道括約筋の働きが低下し、逆流性食道炎を発症しやすくなります。
また、加齢とともに唾液の分泌量が低下し、便を直腸へと送るための「ぜんどう運動」も弱くなってきます。それによって、胃液や胃の内容物の逆流を抑えることができなくなるのです。
あと、高齢者をイメージして頂くと分かりやすいと思うのですが、姿勢が悪くなることによって胃が圧迫されると、胃の内圧が上昇して、逆流性食道炎を発症するリスクが高くなります。
これに関しては、高齢者に限った話ではありません。若い人でもデスクワークなどで同一姿勢を長く続けることで、逆流性食道炎を発症する人が増えているのです。
そして、今回のテーマである便秘と吐き気との関係ですが、最近では若い人も便秘が原因となって逆流性食道炎を発症し、それによって吐き気を催す人が増えているということです。
慢性的な便秘によって逆流性食道炎を発症する人はおよそ10人に1人とされていますが、無理なダイエットなどによって便秘になることで、逆流性食道炎を発症するリスクも高くなるという訳なのです。
慢性的な便秘になると、大腸の中に通常とは比べ物にならない量の便が溜まることとなります。そうなると、腹圧が高まってしまうため、胃液や胃の内容物が逆流しやすくなってしまうのです。
便秘になると便秘薬を飲んで改善する人もいると思いますが、そもそもの食習慣や生活習慣などを改善しないと、便秘を根本的に改善することは出来ません。
日本人の死因ナンバー1はガンですが、女性の場合、その中でも大腸ガンがもっとも多いとされています。その事実と女性に便秘が多いこととは無縁ではないでしょう。便秘にともなって逆流性食道炎が見られる場合、早めに対処することが重要です。
吐き気をともなう便秘その3・過敏性腸症候群
便秘にともなって吐き気がみられる場合に考えられる疾患の3つ目が過分性腸症候群です。近年になって増えている疾患なので、耳にしたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
過敏性腸症候群とは?
分かりやすく言うと、健康診断や病院の検査でなんの以上も見られないにも関わらず、急にお腹が痛くなったり、便秘や下痢になってしまったりする疾患のことをいいます。
かつては、過敏性大腸症候群と呼ばれていたこの疾患ですが、腸管の機能に異常がみられるのは、大腸だけでなく小腸も関連していることが分かってきたため、過敏性腸症候群と呼ばれるようになったという経緯があります。
過敏性腸症候群という名前は始めて聞いたという方もいらっしゃるかも知れませんが、日本人のおよそ10人に1人が過敏性腸症候群の疑いがあるということで、それほど珍しい疾患という訳ではありません。
過敏性腸症候群の特徴としては、便秘と下痢を交互に繰り返すことがあげられていますが、どちらかというと男性は下痢になることが多く、女性は便秘になることが多いとされています。
その他の症状としては、胸やけやげっぷ、吐き気や腹痛、頭痛や肩コリ、めまいや不安感、動悸や焦燥感、鬱々とした気分などさまざまなことがあげられています。
過敏性腸症候群にともなって下痢になった場合、多いと1日に10数回もトイレに駆け込むことがあります。
また、過敏性腸症候群にともなって便秘になった場合、ウサギの糞のような固くてコロコロした便が排泄され、排便した後にもスッキリした感じが得られないという特徴もあります。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の症状が悪化するケースとしては、仕事に向かう途中や会議中、学校に向かう途中などがあげられています。逆に、仕事から帰る時や学校から帰るときには、過敏性腸症候群の症状が出にくいとされています。
また、先程過敏性腸症候群の症状として、胸やけやげっぷ、吐き気や腹痛、頭痛や肩コリ、めまいや不安感、動悸や焦燥感、鬱々とした気分などさまざまなものがあげられていましたが、このような不特定多数の症状のことを不定愁訴と呼びます。
不定愁訴は自律神経失調症や鬱の人に多く見られることから、過敏性腸症候群に関しても、ストレスの存在が大きく関与していると考えられているのです。
私たちの生命活動は自律神経によって支えられていますが、ストレス状態が継続すると、自律神経のバランスにも乱れが生じると考えられています。
自律神経は交感神経と副交感神経から成っていますが、日本人の多くが交感神経優位型だとされています。緊張型というと分かりやすいのではないでしょうか。
欧米の人と比べると、日本人は几帳面で真面目だという印象があるようですが、それは、交感神経優位型の体質も関与しているのかもしれません。
交感神経は車でいうところのアクセルを担当しており、身体を活発に動かす働きがあります。ところが、交感神経が優位に、すなわち、緊張の程度が度を越してしまうと、夜になってもアクセルを踏みっぱなしになってしまいます。
私たちが食べたものは寝ている間に消化・吸収が進みますが、アクセルを踏みっぱなしになると睡眠の質が低下してしまいます。それによって、便秘になってしまうリスクが高くなるという訳なのです。
過敏性腸症候群になる人も、元からストレスを感じやすい人や、日々ストレスにさらされている人がなりやすいという傾向が見られるようです。
便秘にともなって吐き気がある場合の対処法
便秘にともなって吐き気を生じる疾患について見てきましたが、もし吐き気と便秘が同時に現れた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
様子を見る
これまでなんら体調に異変がなかったのに、急に吐き気をともなう便秘がみられた場合、それほど重篤でないのであれば、しばらく様子を見るとよいでしょう。
病院を受診する
便秘にともなって激しい吐き気がみられるようであれば、直ちに病院を受診するようにしましょう。素人判断で病院の受診をしないと、思わぬ疾患を発症する可能性もあります。
「餅は餅屋」などといいますが、吐き気や便秘に関しても、まずは専門医に診てもらうことが一番です。どの科を受診したらいいのか分からない場合は、まず内科を受診するとよいでしょう。
一度専門家にみてもらいましょう
今回の記事では、便秘にともなって吐き気が見られるときに考えられる疾患について紹介しました。便秘と吐き気があるから必ずこの疾患という訳ではありませんが、参考にして頂ければいいなと思います。
吐き気に限らず、便秘を放置しているとさまざまな疾患の引き金となってしまいます。たかが便秘と侮って市販薬に頼っていると、かえって便秘が悪化することもあります。便秘が長く続くようであれば、一度、専門のお医者さんに診てもらって下さいね。