便秘の解消を目的として、日本でも多くの製薬会社が漢方便秘薬と呼ばれる医薬品を開発しています。では、便秘の改善を漢方でおこなうことには、どのようなメリットがあるのでしょう。また、漢方とはどのような治療法なのでしょう。
現代医学は西洋医学をベースにして、治療がおこなわれるようになっていますが、日本古来の医学である漢方によって、さまざまな疾患の改善が講じられることもあります。
もちろん、便秘に関しても同じことが言えます。では、漢方治療によって、どのように便秘を改善するのでしょうか。また、便秘改善に効果的な漢方薬には、どんなものがあるのでしょう。
漢方ってなに?
便秘の改善に効果的な漢方薬を紹介する前に、まずは漢方とはどのような治療法なのかについて見ていきたいと思います。意外な発見があると思いますよ。
漢方は日本の伝統医療
漢方というと、中国の伝統医療だと思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。実は、漢方療法は、日本の伝統的医療なのです。
漢方という言葉が生まれたのは、実は江戸時代に入ってからだといわれています。江戸時代は鎖国していたため、通商相手が清国(現在の中国)とオランダだけでした。
オランダから伝わった医学書である「ターヘルアナトミア」を杉田玄白や前野良沢らが翻訳して、解体新書という書物を作成したことを、歴史の授業で学んだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
江戸時代も後期となると、日本ではオランダから伝わった学問を学ぶ人が増えてきます。オランダから伝わった学問だから、「蘭学」と呼ばれるようになった訳ですね。
杉田玄白は晩年になって、弟子である大槻玄沢に「蘭学事始(らんがくことはじめ)」という回想録を送っています。このように、オランダから伝わった学問を蘭学と呼んでおり、オランダ流の医学のことを蘭法と呼ぶようになったのです。
オランダから伝わった学問を学ぶ人のことを蘭学者と呼び、オランダから伝わった医学を用いて病気の治療に当たる人のことを蘭法医と呼ぶようになったのです。
それまで医学というと中国から伝わったものを日本流にアレンジしたものを指しており、特に漢方などと呼ぶ必要はありませんでした。
ところが、蘭法医による治療が江戸時代後期に盛んになってきたため、それまでの治療法を漢方として区別するようになったのです。ちなみに、中国伝統の医学のことは「中医学」と呼んでいます。
狭義の漢方と広義の漢方
漢方には、狭義の漢方と広義の漢方の2種類があります。もしあなたが友人から「漢方治療をしている」といわれた場合、どのような治療法を想像するでしょうか。おそらく、多くの方が漢方薬による治療をイメージするのではないでしょうか。
それももちろん間違いという訳ではないのですが、それは協議の意味での漢方です。広義の漢方は、漢方薬だけでなく、ハリやお灸を用いた治療や、指圧による治療も含まれています。
現在の東洋医学会では、ハリやお灸、指圧などを鍼灸医学と呼んでおり、漢方薬による治療のことを漢方医学と呼んで区別しています。
そして、現在日本でおこなわれている「いわゆる漢方」と呼ばれる治療法は、漢方薬を用いた病気などの治療、すなわち漢方医学をいうケースがほとんどのようです。
漢方と聞いたときに漢方薬をイメージする人が多いのはそのためです。むしろ、漢方と聞いてハリやお灸、指圧などをイメージする人はまれなのではないでしょうか。
便秘を漢方で改善するメリット
漢方の概念について簡単ですが知ってもらったところで、次に、便秘を漢方で治療するメリットについて見ていきたいと思います。
副作用が少ない
便秘を漢方で治療するメリットとしては、副作用のリスクが低い、ということがあげられます。漢方で用いられる漢方薬は、天然由来の生薬からできているため、化学的に作られる医薬品ほどの副作用のリスクがありません。
ただ、漢方薬にも「メンケン」や「めんげん」などといった反応がみられることもあります。これらの反応は、治癒の過程で起こる好転反応だと考えられています。
また、漢方薬だけでなく、ハリやお灸、指圧も漢方治療に含まれるということでしたが、ハリやお灸、指圧にも副作用はあまりありません。
体質の改善が可能
漢方による治療の特徴は、西洋医学のように画像診断やウィルス、細菌の検査などによる医学的根拠に基づいた治療をおこなうのではなく、過去のデータからどのような状態になっているのかを判断し、それに応じた治療法が採用されるという点です。
中国では漢方医学が国家資格となっており、西洋医学のいしだけでなく、漢方医がさまざまな病気やけがのリハビリなどを担当したり、西洋医学の医師と協力して治療にあたったりすることもあります。
そして、漢方治療の最大の目的は、目の前にある疾患を治すということよりは、体質を改善することにあります。病気を治すのではなく、病気にならない身体にすること、すなわち体質改善が目的となっているのです。
そのため、西洋医学で見られるような対症療法をおこなうことはありません。ただ、日本の医師国家試験に漢方の項目は存在しないため、日本の医師は漢方薬を対症療法的に用いることもあるようです。
便秘を漢方で改善するデメリット
便秘を漢方で改善することには、副作用が少なかったり、体質を改善できたりするというメリットがあります。ただ、メリットがあれば必ずデメリットもあるものです。では、漢方による便秘改善のデメリットは何でしょう。
時間がかかる
便秘を漢方で改善しようとすると、時間がかかるというデメリットがあります。ハリやお灸、指圧による治療はもちろんのこと、漢方薬も西洋医学で用いられる化学的に製造された治療薬ほど即効性のあるものではありません。
もともと漢方治療の目的は、病気になりやすい体質を改善することにあります。そして、体質の改善は一朝一夕でできるものではありません。漢方治療で便秘を直すのであれば、長期にわたって我慢強く取り組むことが重要となります。
飲みにくい
漢方治療のデメリットとしては、漢方薬には独特の風味があり、飲みにくいということもあげられます。良薬口に苦しなどと言いますが、漢方薬の風味が苦手な人にとっては服用がつらいものです。
便秘に効果的な9つの漢方薬
それではいよいよ、便秘の改善に効果的な漢方薬を紹介したいと思います。症状に応じて効果のある漢方薬を9つ紹介していきます。
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
防風通聖散は、肥満傾向のある便秘患者さんによく用いられる漢方薬です。東洋医学でいうところの実証の人にオススメな漢方薬だとされています。
実証とは、分かりやすくいえばエネルギーが有り余っているような人のことを言います。エネルギッシュでバリバリ仕事をしている、脂ぎって太っている男性をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
実証の人で、皮下脂肪がお腹にたまっている人が便秘になった場合、防風通聖散がおススメだということです。ちなみに、防風通聖散はダイエット効果のある漢方薬としても知られています。ただ、飲んだだけで痩せるなどということはないので、濫用しないように気をつけてくださいね。
防風通聖散は、こう得血圧にともなう諸症状の緩和にも効果的とされています。たとえば、高血圧にともなう肩こりやのぼせ、むくみや皮膚炎などの治療効果もあるとされています。
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桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
桂枝加芍薬湯は東洋医学でいうところの虚証の人におススメの漢方薬とされています。虚証は実証とは反対に、エネルギーが少なく、痩せているような人のことを言います。
普段から胃腸の調子が優れない人や、ストレスによって過敏性腸症候群を発症している人などに、桂枝加芍薬湯がおススメだとされています。
小食で食べすぎるとすぐに胃がもたれてしまう人や、冷え症の人、おなかがすぐにはってしまう人や、便秘と同時に腹痛があるような人に桂枝加芍薬湯が奨められています。
また、桂枝加芍薬湯には便秘を改善する効果があるとして知られている大黄(ダイオウ)が含まれていません。大黄には便秘の改善効果もあるのですが、刺激が強いことでも知られています。
そのため、高齢者の便秘や妊婦さんの便秘には大黄を使わない方がよいとされており、そのような場合にも桂枝加芍薬湯がオススメの漢方薬となっています。
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加味逍遥散(かみしょうようさん)
加味逍遥散は、女性の不定愁訴に対して用いられる代表的な漢方薬として知られています。不定愁訴とは、日によって痛む場所や症状が異なるような状態を意味しています。
主に更年期の女性に対して用いられる漢方薬ですが、生理痛や生理不順がある人に用いられることもあります。加味逍遥散には、自律神経のバランスを整える働きがありますが、便を柔らかくする働きもあります。そのため、排便をスムーズにする効果が期待されているのです。
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大柴胡湯(だいさいことう)
大柴胡湯も防風通聖散と同様、東洋医学でいうところの実証の人によく用いられる漢方薬です。がっしりとした体つきをしていて、体力がある人の便秘にオススメの漢方薬とされています。
また、高血圧にともなう頭痛や肩こりを改善する効果や、肥満症や神経症を改善する効果も期待されているということです。 Amazonで詳細を見る
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麻子仁丸(ましにんがん)
麻子仁丸は中間証(実証と虚証の間)から、虚証にかけての人におススメの漢方薬です。高齢者など、胃腸の働きが弱くなっていて、排便をスムーズにおこなうことができないような人向けとなっています。
便秘には弛緩性の便秘と言って、筋力や腹圧が低下することによって起こる便秘があり、便の形状は細くて、ブツブツと途切れがちになります。
高齢者だけでなく、出産後の女性にもよくみられるタイプの便秘ですが、そのような便秘に対して麻子仁丸が効力を発揮するとされています。
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潤腸湯(じゅんちょうとう)
潤腸湯も麻子仁丸と同様、中間証から虚証にかけての人の便秘改善に効果のある漢方薬とされています。名前を見ても分かるように、腸内にある便に適度の潤いを与えてくれる働きがあります。
高齢者や病気をした後で体力が弱っている人などで、ウサギのフンのような硬くてコロコロとした便が出るような人のおススメの漢方薬となっています。
ウサギのフンのような硬くてコロコロとして便が出るようなタイプの便秘を、けいれん性の便秘と呼んでいます。加齢だけでなく、ストレスによって腸管が緊張し、それによって便の通り道が狭くなることでけいれん性の便秘になります。
普段からストレスを受けやすくて、それが便秘となって現れるような人にも、潤腸湯がおススメといえます。ただし、ストレス状態を緩和しないと、いくら漢方薬を飲んでも効果が上がらないので気をつけてくださいね。
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桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
桃核承気湯は、東洋医学でいうところの実証の人で、体力があってがっしりとした体つきをしているものの、頭痛やめまい、のぼせなどとあわせて便秘がある人に用いられる漢方薬です。
東洋医学では、体内を「気」「血(けつ)」「水(すい)」が循環していると考えており、そのうちの血(けつ)の流れが悪くなることを「瘀血(おけつ)」と呼んでいます。
東洋医学でいうところの血(けつ)は、西洋医学でいうところの血液と同義にとらえて問題ありません。血液の流れが悪くなると栄養状態が悪化し、頭痛やめまい、のぼせが表れるというのは、西洋医学でも東洋医学でも同じだと考えられている訳です。
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小建中湯(しょうけんちゅうとう)
小建中湯は、もともとは虚弱体質の小児に対して用いられる漢方薬でしたが、最近では年齢を問わずに虚弱体質の人に対して用いられるようになっています。便秘そのものの改善というよりは、胃腸の機能を改善して、便をスムーズに排出できる体質に改善することが目的となっています。
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大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
大黄甘草湯は、便秘の改善効果があるとしてよく知られている漢方薬です。便秘だけでなく、便秘にともなう吹き出物や皮膚炎、おなかの張り感を改善する目的でももちいられます。
ただ、先ほども少しふれたように、大黄は刺激が強いため、高齢者や妊婦さんの使用は、少量ずつ慎重におこなう必要があります。
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漢方で体質改善をしましょう
便秘改善の効果がある漢方や、漢方治療の考え方について見てきましたが、いかがだったでしょうか。便秘改善の効果がある漢方にはいろいろなものがありますが、基本として体質の改善が目的となっています。
西洋医学の治療薬のように即効性のあるものではないので、長い目で見て便秘を改善したい人におすすめだと言えそうですね。