なかなかニキビが治らなくて悩んでいたら、友人が「ロコイド軟膏の効果がすごいよ」と教えてくれました、でも、調べてみるとロコイド軟膏はステロイド剤であるということがわかりました。
ステロイド剤を使うと皮膚が薄くなったり、いずれ効かなくなったりするイメージがあるのですが、ニキビに使っても大丈夫なのでしょうか。そんな疑問に答えるべく、今回はロコイド軟膏について解説したいと思います。
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ロコイド軟膏の特徴
ロコイド軟膏でニキビが治るのかどうかについて解説する前に、まずはあまり耳馴染みのないロコイド軟膏とは、どのような治療薬なのかについて知っておきましょう。それによって、ニキビに対して有効なのかどうかが分かりやすくなると思いますよ。
ロコイド軟膏とは
ロコイド軟膏はロコイドクリームとも呼ばれており、薬効分類名としては「外用副腎皮質ホルモン剤」に分類される医薬品です。
ロコイド軟膏として販売が開始されたのは1975年の10月からですが、現在販売されているロコイド軟膏0.1%(もしくはロコイドクリーム0.1%)は、2008年の12月から販売が開始されたということです。
ロコイド軟膏やロコイドクリームの後ろについている「0.1%」という数字は、ロコイド軟膏やロコイドクリーム1g中に、有効成分であるヒドロコルチゾン酪酸エステルが1mg配合されていることに由来しています。
ロコイド軟膏(ロコイドクリーム)は、ステロイド剤の一種でもあります。ステロイド剤というと、皮膚が薄くなったり弱くなったりするイメージをお持ちの方もいらっしゃることと思いますが、それは、ステロイド剤の強さや使用頻度にもよります。
ステロイド剤は一般的に、その強さから5つのランクに分類されます。もっともステロイドの作用が強いものをストロンゲスト、2番目に強い作用をもつものをベリーストロング、その次がストロングで、以下、ミディアム、ウィークと続きます。
とは言うものの、ウィークに分類されるステロイドとしてはプレドニロゾンのみがあげられており、その他のステロイドは全て、ミディアム以上に分類されています。
ロコイド軟膏の有効成分であるヒドロコルチゾン酪酸エステルは、ミディアムに分類されるステロイドです。ステロイド剤としては、どちらかというと弱い方に分類されると言えるかもしれません。
ステロイドの効果や副作用は、ステロイドを内服する場合と概要する場合とで異なってきます。ロコイド軟膏は外用薬であるため、内服タイプのステロイドのように、全身に作用するような効果(および副作用)はありません。
ただ、ステロイド性外用薬特有の副作用(局所敵副作用といいます)はあります。それに関しては、後ほど詳しく紹介したいと思います。
ロコイド軟膏の働き
ロコイド軟膏はステロイド剤なので、ステロイド剤特有の働きがあります。その最大の働きとしては、炎症を抑える働き(抗炎症作用)があげられます。
アトピー性皮膚炎の治療薬としてよくステロイド剤が用いられますが、それは、アトピー性皮膚炎の人の肌に炎症がおこり、肌がジュクジュクしてかゆみが出たり、赤くはれたり、象の皮膚のように固くなったりするからです。
ステロイド剤には抗炎症作用があるので、アトピー性皮膚炎の特徴である、皮膚の炎症を抑え、かゆみや赤みを抑えてくれるのです。
また、ロコイド軟膏のようなステロイド剤は、免疫反応を抑制する働きもあります。そのため、膠原病やリウマチなどをはじめとした、自己免疫疾患の治療に用いられています。
あと、ステロイド剤には、細胞の増殖を抑える働きもあります。それによって、表皮の過剰な増殖が原因となっておこる「乾癬(かんせん)」などの治療をおこなうこともあります。
どんなタイプのニキビに使用するのか
ロコイド軟膏は比較的弱いとは言うものの、ステロイド剤に分類される医薬品です。では、ロコイド軟膏をニキビの治療に用いるようなことはあるのでしょうか。
炎症が軽い場合
ニキビとは、毛穴の中に本来であれば剥がれおちるべき角層(垢)や皮脂、汚れなどが詰まったもののことを言います。医学的には「尋常性ざ瘡」と呼ばれていますが、大きく分けると「非炎症性ざ瘡」と「炎症性ざ瘡」の2つに分類することが可能です。
毛穴に皮脂が詰まって塞がってしまうと、ニキビの原因菌である「アクネ菌」が異常に増殖し、その結果として炎症が生じることとなります。そのようなニキビのことを、炎症性ざ瘡と呼んでいるのです。
では、抗炎症作用を持つステロイド剤であるロコイド軟膏を用いて、ニキビを改善することは可能なのでしょうか。これに関しては、日本皮膚科学会の「尋常性ざ瘡診療ガイドライン」が参考になります。
痤瘡にステロイド外用を行った海外のRCT(ランダム化比較試験 ※筆者注)によると、ステロイド含有外用薬と基剤の比較試験では、 統計学的有意差はなく、ステロイド外用により皮疹が改善したとするエビデンスはない。
したがって、ステ ロイド外用が痤瘡に有用とする根拠はない。ステロイド外用薬は、一時的に炎症を止める効果が期待されるが、ステロイド外用薬が痤瘡を誘発することはよく知 られており、長期間のステロイド外用は、その他の副作用の点から明らかに好ましくない。
短期間の使用の可否についても十分なエビデンスの確立までは推奨で きない。以上より、炎症性皮疹にステロイド外用を推奨し ない。
簡単にいうと、ロコイド軟膏を用いてニキビ治療をおこなうのは好ましくないということです。むしろ、ロコイド軟膏を使うことで、ニキビを誘発する可能性もあるということです。
炎症が強い場合
原則として、ロコイド軟膏のようなステロイド剤を、ニキビの治療に用いることはありません。なぜなら、ステロイド剤には一時的に炎症を抑える働きしかないからです。
ただ、医師の中にはこの一時的な抗炎症作用に期待して、ニキビの炎症が強い場合に限り、一時的にロコイド軟膏のようなステロイド剤を用いることもあるということです。
また、ロコイド軟膏ではありませんが、ニキビの瘢痕(潰してケロイドのようになった部分)に、ステロイド剤を局所注射するのは、日本皮膚科学会も効果があると認めています。
ロコイド軟膏の成分・効能効果と安全性
それでは改めて、ロコイド軟膏に含まれている有効成分や、その効果と効能、また、安全性について見ていきたいと思います。
有効成分(1g中)
「ロコイド軟膏とはどのような医薬品であるのか」について解説したときにも出てきましたが、ロコイド軟膏の有効成分はヒドロコルチゾン酪酸エステルです。ロコイド軟膏1gにつき、1mgのヒドロコルチゾン酪酸エステルが含まれています。
ロコイド軟膏の効果・効能としては、湿疹や皮膚の炎症性疾患(進行性指掌角皮症やビダール苔癬、脂漏性皮膚炎など)、痒疹(蕁麻疹様苔癬やストロフルス、固定蕁麻疹など)、 乾癬、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの改善があげられています。
用法・用量としては、1日に1回から数回、適量を患部に塗布すると説明されています。どれくらいの量を塗布すればいいのかは、医師、または薬剤師の指導を仰ぐようにしましょう。
ロコイド軟膏には添加物としてステアリルアルコール、パラフィン、白色ワセリンが、ロコイドクリームには、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム水和物、パラオキシ安息香酸メチル、セタノール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、白色ワセリン、流動パラフィンが含まれています。
安全性
ロコイドクリームやロコイド軟膏に配合されているヒドロコルチゾン酪酸エステルは、ステロイドの強さでいうと下から2番目に分類されているため、比較的安全なステロイド剤だということができます。
ただ、化学的に製造された医薬品には、効果・効能があれば、必ず副作用もあります。そのため、自己判断で用いることなく、医師や薬剤師の指導を仰ぎ、用法・用量を守って使用することが重要です。
ロコイド軟膏の副作用
ロコイド軟膏はステロイド剤の一種であり、外用薬でもあることから、ステロイド外用薬特有の、「局所的副作用」の現れる可能性があります。
局所的副作用は大きく分けて「皮膚の委縮」「毛細血管の拡張」「色素の脱失」「多毛」「ステロイド性ざ瘡」「皮膚の真菌感染」の6つに分類されます。
皮膚の委縮とはその名の通り、皮膚が縮んでしまうことで、それによって皮膚が弱くなったり、薄くなったりします。皮膚の乾燥の一因となることもあります。
ステロイド剤を使用すると、毛細血管が拡張することも分かっています。それによって、普段は目立たない毛細血管があらわになって見えたり、太くなったり、毛細血管のある部分が赤くなったりします。
また、ステロイド剤を使用するとメラニン色素が少なくなってしまうことから、皮膚が白っぽくなることも分かっています。多毛はその名の通り、ステロイド剤を使った場所の産毛が太くなることを言います。
ステロイド剤のやっかいなところは、ステロイド剤を用いることによって、ステロイド性ざ瘡のできるリスクが上昇するところにあります。
ニキビを治そうと思ってステロイド剤を使ったら、かえってニキビができたり、ニキビが悪化したりするといった現象が見られた、というのでは本末転倒ですよね。
ステロイド剤を用いた場合のもう1つの厄介な点が、ステロイド剤を用いた部分が、真菌感染しやすくなるということです。
真菌とはカビの一種ですが、人間の皮膚には多数の真菌(常在菌)が存在しています。カンジダやマラセチアなどがそれに当たります。
ロコイド軟膏の使い方
ロコイド軟膏はステロイド剤の一種であるため、「正しく使用する」ことが重要です。では、ロコイド軟膏はどのようにして用いるとよいのでしょうか。
1日1回~2回が目安
ロコイド軟膏は、1日に1回から2回、場合によっては数回用いるのが目安となっています。ただし、その人の皮膚の強さや炎症の程度などによって使用頻度は異なります。かかりつけのお医者さんに相談して、どれくらい使えばいいのかアドバイスをもらいましょう。
洗顔後の清潔な肌に塗る
ロコイド軟膏に限ったことではありませんが、皮膚に外用薬を塗布する際には、顔を洗って清潔にしておくことが重要です。
顔を洗わずに不潔にしていると、皮脂の上から外用薬を塗ることとなってしまい、外用薬の有効成分が浸透しにくくなってしまいます。
ニキビにロコイドの使用時の注意点
ここまでの説明でご理解頂けたことと思いますが、基本的に、ニキビに対してロコイド軟膏のようなステロイド剤を用いることはありません。
ただ、炎症がひどい場合に、一時的にロコイド軟膏を利用するケースもあるということです。そこで、ロコイド軟膏をニキビに対して用いる際の注意点を紹介しておきたいと思います。
使用前後は手を洗う
ロコイド軟膏に限った話ではありませんが、皮膚に塗布する外用薬を利用する際には、手をキレイに洗っておくことが重要です。
特に、ニキビができているような皮膚というのは、皮膚の環境が悪化している状態と言えます。そのような皮膚を不潔な手で触ると、リスクが大きいことは誰にでもわかることと思います。
私たちの手には無数の細菌が付着しています。よく、食器洗いの洗剤などで、まな板に付着している細菌を顕微鏡でアップにし、「まな板にはこんなにたくさんの細菌が!」などと宣伝していますよね。
でも、私たちが毎日のように触っているパソコンのキーボードにも、たくさんの細菌が付着しています。そのため、ロコイド軟膏をしようする前には、手をキレイに洗って、雑菌を除去しておくことが重要なのです。
洗顔と化粧水後に使用
ロコイド軟膏は、洗顔をした後と、化粧水を塗ったあとの2度にわたって塗布すると効果的です。洗顔をおこなったあとは、無駄な皮脂が落ちているので、ロコイド軟膏の有効成分が患部に浸透しやすくなっています。
ただ、洗顔をしてそのまま放置してしまうと、やがて皮膚から水分が蒸発し、乾燥することとなります。皮膚にとってもっとも避けるべきことが乾燥なので、化粧水を塗って保湿することが重要です。
とは言うものの、化粧水を塗っただけでは、やはり水分が蒸発して、いずれ肌が乾燥することとなります。そこで、お肌にうるおいを閉じ込める作用のあるワセリンが含まれている、ロコイド軟膏で、お肌の水分を閉じ込めてあげるのです。
ヒドロコルチゾン酪酸エステルによる抗炎症作用でニキビの腫れを抑え、ワセリンによる保湿作用で、お肌のコンディションを整えることが可能となるのです。
過剰な量の塗布は控える
これもロコイド軟膏に限った話ではないのですが、およそ医薬品というものは、用法・用量を守ることが絶対条件となっています。たくさん使えば使うほど効果が高くなるということはもちろんありませんし、副作用のリスクを高めることにつながりかねません。
皮膚への刺激が少ない医薬品ならまだしも、ランクが低いとはいえ、ロコイド軟膏は皮膚への刺激が強いステロイドを含んだ医薬品です。塗りすぎることは絶対にしないでくださいね。
改善されなければ使用を控える
ロコイド軟膏を塗布しても、ニキビに改善がみられないようであれば、使用をいったん中止しましょう。なんら変化が見られないのであれば、ロコイド軟膏の有効成分では、そのニキビは治せないということです。
繰り返しになりますが、そもそもステロイド剤というものは、炎症を一時的に抑えるためのものです。翻って、ニキビの原因は何かというと、アクネ菌という細菌の異常な増殖です。
細菌をやっつけるために必要なのは「抗生物質(抗生剤)」であり、ニキビを根本的に治すためには、抗生物質を用いて原因菌を除去する必要があるのです。
ロコイド軟膏を用いてニキビの治療をおこなうというのは、例えるなら、雑草の根を抜かずに葉っぱだけちぎっているようなものです。
その場のかゆみや痛み、腫れなどは収まるかも知れませんが、根っこ(原因菌)を除去しなければ、また同じ症状が現れることとなるのです。
2か月以上の使用は控える
ロコイド軟膏のようなステロイド剤を用いる場合、2ヶ月以上にわたって用いることは避けましょう。先ほど、ロコイド軟膏の副作用を6つあげましたが、長期にわたってロコイド軟膏を使用した場合、副作用のリスクが跳ね上がってしまうからです。
特に、ロコイド軟膏のようなステロイド剤を用いると、ステロイド性ざ瘡と呼ばれる、ニキビのような疾患の現れるリスクが上昇します。ニキビを治そうと思ってニキビができていれば世話ありませんよね。
医師の指導を仰ぐ
ロコイド軟膏をしようする際には、必ず医師の指導を仰ぐようにしましょう。ロコイド軟膏は市販されていますし、インターネットでも購入できるため、誰でも簡単に入手することが可能です。
ただ、ステロイド剤には副作用のリスクがある上、原則としてニキビに対して用いるものではありません。ニキビが治らないという場合は、自己判断でロコイド軟膏を用いるのではなく、まずは皮膚科医に相談しましょう。
ロコイド軟膏を正しく使いましょう
ロコイド軟膏について見てきましたが、いかがだったでしょう。インターネットには医学的根拠の裏付けがない記事も出回っており、ロコイド軟膏に関しても、ニキビ治療に有効とするものがあります。
ただ、ロコイド軟膏のようなステロイド剤に関しては、日本皮膚科学会がニキビに対する効果を明確に否定しています。ニキビを根本から治したいのであれば、インターネットで治療法を調べるよりも、皮膚科のお医者さんに相談した方が早いですよ。