美容や歯の予防という観点からすると、日本の口腔ケア事情は先進国の中で遅れているといわざるを得ません。歯のクリーニングについても同様で、定期的に歯をクリーニングしているという人は、それほど多いとは言えないようです。
今回は、「歯のクリーニングに興味があるけど、どんなことをするのか、また、料金はいくらくらいかかるのか」といった疑問に答えていきたいと思います。
CONTENTS
日本のクリーニング事情
歯のクリーニングはどのようなことをおこなうのかを説明する前に、まずは日本人の歯のクリーニング事情について紹介しておこうと思います。また、歯のクリーニングがなぜ必要なのかについても併せて解説していきます。
クリーニングを定期的にしている人の割合
突然ですが、「8020(ハチマルニイマル)運動」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。1989年(平成元年)から、当時の厚生省(現在の厚生労働省)と日本医師会とによって推進されている運動で、80歳になっても自前の歯を20本以上残すことを目標としています。
当時の厚生省が発表した「成人歯科保健対策検討会中間報告」という資料によると、歯が20本以上残っていることによって食事の際にものを噛むことが容易となるため、日本の平均寿命である80歳まで、20本の歯を残す「8020運動」をおこなうのが適切だと考えられたのです。
このような運動が推進されてきた背景には、欧米諸国の人と比較して、日本の高齢者には残されている歯の本数が少ないという背景があります。
世界でもっとも「歯の健康寿命」が長いのは北欧のスウェーデンで、80歳時点での平均残存歯数が、なんと25本もあるということです。
ホワイトニングや歯列矯正をおこなうのが当たり前だと考えられているアメリカでも、80歳時点の平均残存歯数が17本あり、イギリスでも15本あるということです。
それに比べて、長寿大国である日本における80歳時点での平均残存歯数は、たったの8.8本しかないということです。国民皆保険制度という世界でも優れた制度を有する日本で、なぜこのようなことが起こっているのでしょうか。
その原因としては、欧米諸国と比べた定期健診の受診率の低さがあげられます。たとえば、スウェーデンで歯の定期健診を受ける人は全体の90%とされています。
続いてアメリカの80%、イギリスの70%となっています。ところが、日本で歯の定期健診を受けている人の割合は、たったの2%にしか過ぎないというデータがあるのです。
日本では歯の治療を安く済ませることができるため、歯科医院は「歯が痛くなったら行く場所」といった具合に認識されており、虫歯を予防するために通うという発想の少ないことが分かります。
世界との違いは?
日本と世界とでは歯医者さんで定期健診を受ける割合が異なるということでしたが、なぜそのような違いが生じるのでしょうか。ホワイトニングや歯列矯正の先進国であるアメリカと比較して説明してみたいと思います。
アメリカでは歯並びの悪さが貧しさを象徴すると考えられています。笑ったときに歯並びの悪い歯が見えた場合、それだけで「育ちが悪い」と思われてしまうのです。
そのため、アメリカでは「子供の歯並びをよくするのは親にとって当然の義務である」と考えられています。また、アメリカ人と日本人とでは、コミュニケーションの濃淡にも差があります。
アメリカ人は恋人同士でなくても、ハグをして頬にキスをしてコミュニケーションをとります。一方、日本ではキスという行為が性的なものとして捉えられているという現実があります。
キスをするときに歯並びが悪かったり、歯が黄色かったりすると幻滅ですよね。日常的にキスをする機会の多いアメリカ人は、そういった意味でも歯をキレイに保とうとする意識が高いのです。
また、アメリカでは日本のように国民皆保険制度が布かれていないという実情もあります。日本人は何らかの健康保険に加入することが法律によって定められています。
そのために税金を払うことになるわけですが、その恩恵として、病気やけがの治療費を一部(たいていの場合は3割)負担するだけでよいこととなります。
アメリカではそのような制度がないため、全額自己負担となります。虫歯になったことのある人でしたがご存知のことかと思いますが、通常、虫歯の治療が1回で終わることはありません。
そのたびに全額を負担していたら、経済的にとても苦しいこととなってしまいます。そういった点からも、アメリカなどでは予防歯科が重要視されているという訳なのです。
比例して高まる歯周病患者
日本人が定期的に歯科医院を受診する割合は、全体のたった2%ということでした。そして、定期健診の受診率の低さに比例して、歯周病患者さんは増大しているという現実があります。
厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」が、平成26年におこなわれました。その結果、歯肉炎および歯周疾患の患者さんは331万人超で、前回の調査よりも65万人も増えているということです。
内訳を見てみると、男性がおよそ137万人で、女性がおよそ194万人となっており、男性よりも女性により歯周病患者さんが多いということです。
全身疾患の危険性
歯を健康に保つことは、全身の健康という観点からしてもとても重要なことです。たとえば、歯周病の原因となる細菌によって動脈硬化が促進されると、狭心症や心筋梗塞といった心疾患のリスクが高くなるということです。
あと、脳の血管や首の動脈に歯周病が原因の血の塊やプラークが詰まることで、脳梗塞を起こす可能性が高まるということです。実際に、歯周病をもっている人は、そうでない人と比べて、2.8倍も脳梗塞になりやすいというデータがあります。
また、古くから歯周病は糖尿病の合併症といわれており、糖尿病になることで歯周病が進行すると考えられてきました。
ところが、近年の研究によって、歯周病の方がむしろ糖尿病の悪化につながっている、ということが明らかになってきているのです。つまり、歯周病を改善することで、糖尿病の改善も期待できるということなのです。
他にも、歯周病が進行することによって骨粗鬆症の症状が強く現れたり、誤嚥性肺炎のリスクが高まったりするということも指摘されています。
歯のクリーニングとは?
「歯のクリーニングなんて道楽者のすること」などといった考え方をしている人もいらっしゃると思いますが、歯のクリーニングが身体の健康にとっていかに重要かが分かって頂けたのではないでしょうか。それでは次に、歯のクリーニングにはどれくらいの料金がかかるのかについて見ていきたいと思います。
保険のクリーニング
歯をクリーニングする方法としては2つの手段があります。1つは、保険診療でおこなわれるクリーニングで、もう1つは自由診療でおこなわれるクリーニングです。まずは保険診療でおこなわれるクリーニングについて見ていきましょう。
①料金
歯のクリーニングは原則として審美目的でおこなわれることとなるため、通常であれば保険が適用されることはありません。では、どのような場合に保険でクリーニングがおこなわれるのでしょうか。
それは、画像診断や視診の結果として、歯周病であると判断された場合です。ただ、保険診療で歯のクリーニングを合わせておこなう場合、メインの治療は当然のことながら歯周病ということになります。
そのため、十分なクリーニング効果が得られないというデメリットがあります。歯科医院の方でも、保険診療で歯のクリーニングをしても儲からないため、あまり積極的におこなわれることはありません。
料金に関しては、歯の治療や歯周病の治療に準ずることとなります。初診料を除けば数百円から千円前後ということになるのが一般的です。
②施術の流れ
先ほども説明したように、原則として保険診療で歯のクリーニングをおこなうことはできません。あくまでも、虫歯や歯周病治療の一環として、歯のクリーニングがおこなわれることとなります。
そのため、通常の診察と同様に問診や視診、レントゲンなどの画像診断がおこなわれ、その後、複数回に分けて虫歯や歯周病の治療をおこなうこととなります。それと並行して、歯石を除去するなどといったクリーニングがおこなわれることとなります。
ただし、保険診療の範囲内でおこなわれる歯のクリーニングは、当然のことですが「治療に必要とされる部分」だけです。全体のクリーニングがおこなわれるようなことはありません。もし行っている場合には違反になってしまいます。
自費のクリーニング
保険診療による歯のクリーニングは例外的だということが分かって頂けたことと思います。一般的には歯のクリーニングは自費でおこなうこととなるのです。
それだけではなく自費のクリーニングは歯周病の原因であるバイオフィルム除去することができるため定期的に行った場合には高い確率で歯周病を防ぐことができます。冒頭でもお話した海外を例にあげましたが残っている歯の本数からその効果もわかりますよね。
自費のクリーニングの効果も理解していただいたところで気になるのはやはり料金ではないでしょうか。
①料金
自費で歯のクリーニングをおこなう場合は、全額自己負担ということになります。そのような治療法のことを自由診療と呼んでいますが、自由診療の場合、決まった料金はありません。
歯科医院やクリニックによって料金設定はまちまちです。基本的に1回でクリーニングが終わりますがタバコを吸う人でステインが多すぎる場合は2回に分けて行う場合もあります。大体1回あたり10,000円~20000円ほどかかります。
自費で歯のクリーニングをおこなう場合、事前に歯科医院やクリニックのホームページで料金を確認するようにしましょう。審美目的の自費治療の場合、たいていのケースで料金が記載されているはずです。
②施術の流れ
自費でおこなう歯のクリーニングにもいろいろな機械を使用します。たとえば、超音波スケーラーという機械を使い歯石を除去します。そしてPMTCと言って機械的に歯の表面を磨くことで歯についているバイオフィルムを除去することができます。
PMTCとは「プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング」の略になります。医師や歯科衛生士が機械を使い歯を掃除することです。
そしてより頑固なステインがついている場合にはエアフローと言って重曹を歯に吹き付けて汚れを取る機械を使うこともあります。最後にフッ素などで歯を補修してコーティングすることで汚れをつきにくくすることも重要です。
保険と自費の違いは?
保険診療と自費治療とのもっともわかりやすい大きな違いは、治療にかかる費用の違いです。保険診療の場合は自己負担分が3割で済みますが、自費治療の場合は全額が自己負担ということになります。
ですが効果の面でみると、自費治療の歯のクリーニングの方が、時間をかけて普段取ることのできない汚れを丁寧におこなってくれるため、自費のクリーニング費用対効果は高いです。
Q&A
これまでの説明で、歯のクリーニングについてはおおよそのことは分かったのではないでしょうか。ではここで、歯のクリーニングに対してよくある疑問を見ていきたいと思います。
どのくらいの間隔で定期的にうければいいの?
歯のクリーニングは原則として自費治療でおこなうということですが、そうなると気になるのが、どれくらいのペースで通えばいいのかということですよね。
これに関しては、通常であれば3ヶ月に1度くらいのペースで定期的に通うことで将来歯を失わずすみます。3か月くらいの頻度であれば歯医者さんにも通いやすいですね。もちろん喫煙でステインがついきやすい方は1~2ヶ月で通っても問題ありません。
自費のクリーニングはどこでうけられるの?
歯のクリーニングを自費で受ける際には、審美目的の治療をおこなっている歯科医院や、審美目的の治療を専門としているクリニックで施術を受けることとなります。
もともと歯科医院は虫歯や歯周病といった口腔トラブルを治療する場所でしたが、国をあげて予防をしていこうという観点になってからは自費のクリーニングを行う歯科も増えてきました。とは言うものの、すべての歯科医院で歯のクリーニングをおこなっている訳ではありません。
それに、まだ日本では歯のクリーニングの普及率の低いため、歯を上手にクリーニングできる歯科医師や歯科衛生士の数が不足しているという現実もあります。
歯のクリーニングをおこないたい際には、ホームページを見て、信頼のできる歯科医院やクリニックを探すようにしましょう。
クリーニングをしましょう!
歯のクリーニングについて見てきましたが、いかがだったでしょうか。単に見た目をよくするだけでなく、虫歯や歯周病、ひいては全身疾患を予防することにつながることを、理解して頂けたのではないでしょうか。
永久歯になったら歯は二度と生えてきません。いつまでも健康な歯で美味しくごはんを食べるためにも、定期的に歯のクリーニングをしたいものですね。