「最近、歯を磨いても臭いが残っているような気がする」「他人が顔を背けているような気がする」…そんな悩みを持っている方、いらっしゃいませんでしょうか。
現在ではそのような人のために、「口臭外来」という専門の科ができています。今回は「口臭くらいで病院に行っていいのかな?」と悩んでいる人のために、口臭の原因と口臭外来での治療法などについて解説したいと思います。
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口臭とは?
口臭外来について解説する前に、そもそも口臭とはどのようなものを指すのかについて説明しておきたいと思います。口臭は大きく分けると、生理的口臭と病的口臭、そして外因的口臭の3つに分類することが可能です。
生理的口臭
生理的口臭とはその文字からも分かるように、誰にでもあたり前に見られる口臭のことを意味しています。朝起きたときに口臭がするのは誰でも経験があることだと思います。
生理的口臭にもいろいろな種類があって、たとえば先にあげた朝起きたときに口臭がするようなケースを「起床時口臭」と呼んでいます。その他にもお腹が空いたときに現れる「飢餓口臭」や、緊張したときに現れる「緊張時口臭」などがあります。
一般的に、生理的口臭は唾液の分泌量が低下したときにおこるといわれています。起床時や空腹時、緊張時にのどがカラカラになるという経験は、誰でもしたことがあるのではないでしょうか。
そのようなときには、唾液の分泌量が低下します。唾液には細菌から口腔内を守る働きがあるのですが、唾液の分泌量が低下すると、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。
そして、細菌がエサとなる歯垢(プラーク)を分解するときに、口臭の原因となる揮発性硫黄化合物(頭文字を取ってVSCと呼ばれることもあります)を発生させるのです。
揮発性硫黄化合物としては、硫化水素やメチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどがあげられますが、程度の差こそあれ健常者のほとんどに見られるということです。
生理的口臭の目安としては、半径30cm以内に近づいたときに他人に不快感を与える程度とされており、通常の会話程度であれば、相手に不快感を与えるようなことはありません。
また、常に口臭があるわけではなく、身体のコンディションによって臭いに強弱が現れるということです。ただ、あとで紹介する病的口臭ほど、相手に不快感を与えることはありません。
あと、病的口臭の場合は本人も自覚していることが多いのですが、生理的口臭の場合、本人には自覚がないこともあります。
生理的口臭は口内環境の変化(主に唾液分泌量の減少)によって起こるタイプの口臭であるため、水分補給をしたり歯磨きをしたりすることで揮発性硫黄化合物を減少させれば、自然と口臭もなくなることとなります。
厚生労働省では、口内環境を清潔に保つ意味も込めて、「健康為に水を飲もう」という看板を掲げています。一般的に、人間は1日に2リットルから2.5リットル程度の水分摂取をする必要があるといわれています。
ただ、そのすべてを水などの飲み物から摂取するわけではありません。食事からも1リットルから1.5リットル程度の水分を摂取できるので、残りの1リットルから1.5リットルを水から摂取することとなります。
生理的口臭としてはその他にも、加齢による口臭や、民族特有の口臭もあげられています。また、女性の場合は妊娠や出産、月経時や更年期など、ホルモンバランスの乱れによって、口臭が現れることもあるということです。
病的口臭
口臭の中には病的口臭と呼ばれるものもあります。病的口臭はさらに、口腔内に原因があることによって起こる口臭と、口腔内以外の場所が原因となっておこる口臭の2種類に分類されます。
口腔内原因の病的口臭
口腔内に何らかの原因があっておこるタイプの口臭を、口腔内原因の口臭と呼びます。原因としてもっともポピュラーなものは歯周病で、口腔内原因の口臭全体のおよそ6割を占めるということです。
歯周病とは、歯と歯茎の間が清潔に保たれていないときに起こりやすい疾患で、細菌感染によって、歯茎に炎症をひき起こすという特徴があります。
ただ、歯茎が赤みを帯びて腫れてきたとしても、虫歯のように痛みが出る訳ではありません。そのため、歯周病になっていても本人が無自覚なことがあります。
口内には通常、300種類から500種類もの常在菌が存在しており、それぞれ微妙なバランスを保っています。ところが、何らかの理由でそのバランスが崩れると、悪玉菌によって歯周病が引き起こされてしまうのです。
歯周病が進行すると歯茎から出血をしたり、血に混じって膿がでてくるようになったりします。歯周病がそこまで進行した場合、口臭もひどいものとなります。
口腔内原因の口臭はほかにも、歯垢(プラーク)や歯石によって発生することがあります。歯垢は歯の表面にたまった細菌の塊で、歯磨きの際の磨き残しを養分としています。
歯垢を長いあいだ放置していると、それがいずれ歯石へと変化していきます。歯石が目立つようになると口臭がきつくなりますし、虫歯や歯周病になるリスクも高くなってしまいます。
歯垢や歯石が溜まった結果、虫歯になってしまうことで、口臭が増してしまうケースもあります。エナメル質で虫歯がとどまっている場合には、それほど口臭が現れることはありません。
ところが、虫歯が象牙質を超えて歯髄(いわゆる歯の神経とよばれるもの)にまで達した場合、強烈な悪臭を放つようになるということです。
さらに、口腔内原因の口臭の原因として、舌苔(ぜったい)があげられることもあります。舌苔は誰にでも見られるものなのですが、あまりにも増えたような場合、口臭がひどくなるということです。
口腔外原因の病的口臭
病的口臭の中には、口腔外に原因があって引き起こされるタイプもあります。よくあるのが、内科系の疾患が原因となって発生するタイプの口臭です。
口臭が発生することでよく知られている内科系の疾患としては、糖尿病や気管支炎などの呼吸器系の疾患、肝硬変や肝炎などの肝機能障害、慢性腎不全などの腎機能障害、甲状腺の機能障害などがあげられています。
また、鼻やのどの疾患が原因で口臭がひどくなることもあります。代表的なものが、鼻の奥に膿の溜まる蓄膿症(副鼻腔炎)です。その他にも、咽頭炎や喉頭炎による膿が原因となって口臭を発するようなこともあります。
外因的口臭
口臭の種類の3つ目は、外因的口臭と呼ばれるタイプの口臭です。外因的口臭は、タバコやアルコール、食べ物などが原因で起こるタイプの口臭を意味しています。
ニンニクを食べた人と話をすると、強烈な臭いに閉口することがあると思います。その他にも、ニラやラッキョウ、ネギや納豆、たくあんなどの臭いが強い食べ物を摂取すると、一時的に口臭がひどくなってしまいます。
ニンニクを食べた後に牛乳を飲むと口臭を予防できるといわれることがありますが、それは、牛乳に含まれているタンパク質に、ニンニクなどに含まれるニオイ成分を包み込む働きがあるからです。
また、タバコを吸うと、たばこに含まれているタール(いわゆるヤニ)が歯の表面に付着し、それによって口臭がひどくなるケースもあります。ただ、タバコが原因の口臭はそれだけにとどまりません。
タバコのニオイ成分は体内に取り込まれたときに、血液中にも混入します。そのニオイ成分が身体の中を循環して、その後、肺から臭い息が吐き出されることとなるのです。
少しでも気になれば口臭外来へ
ここまで見てきましたように、口臭の原因は実にさまざまで、素人判断ではなにが原因かを見極めることが困難です。そのような場合には、口臭外来を受診して、専門医のアドバイスや施術を受けるとよいでしょう。では、口臭外来ではどのような検査や施術をおこなっているのでしょうか。
カウンセリング
口臭外来も他の治療院と同様、まずは予診表に必要事項や具体的な悩みを記入することとなります。それを元に、医師による問診やカウンセリングがおこなわれることとなります。
口臭の原因は実にさまざまなので、その人の生活習慣や既往(かつて経験した病気のこと)、アレルギーや耳鼻科系の疾患を有していないかなどを聞くことで、どこに口臭の原因があるのかを探っていきます。
精密検査
口臭外来でおこなわれる検査は主に3つあります。1つはガス検査で、もう1つは唾液の分泌量の検査、最後にレントゲンによる画像検査となります。
ガス検査
呼気にどのようなガスが含まれているのかを図るための検査です。それによって、生理的口臭なのか、病的口臭なのかの判断をつける目安となります。
口腔内のガス検査は注射器を1分間口にくわえておこなうものですが、痛みなどは全くありません。また、歯並びや粘膜の状態、咬み合わせや舌の状態なども併せてチェックされます。
唾液の分泌量を測る検査
舌の上に専用の機械をあてるだけで測定が可能となっているため、やはり痛みなどはありません。
口臭の原因はいろいろありますが、口腔内に起こるトラブルのほとんどに唾液の分泌量が関与しています。そのため、唾液が正常に分泌されているかどうかを調べることはとても重要なのです。
レントゲン
これは何のためにおこなわれるのかというと、口元全体のレントゲンを撮ることによって虫歯の有無や、歯周病によって骨が溶けていないかなどを判断するためです。
また、蓄膿など口以外の原因もわかるためにレントゲン撮影が必要になってきます。
細菌検査
少量のプラークを採取し位相差顕微鏡にかけることによって細菌を調べることができます。
全部合わせてもせいぜいそれほどかからないので、患者さんの身体的・精神的負担もそれほど大きくありません。
尿検査
尿検査は、口腔内に原因がある口臭ではなく、口腔外に原因がある場合の口臭を判別するためにおこなわれます。尿検査の数値に異常が見られれば、内科系の疾患が潜んでいる可能性もあるからです。
口腔内検査
口腔内検査では虫歯の有無やや歯周ポケットの状態、磨き残し状態など歯医者さんで行うようなお口の中のチェックを行います。
施術
検査の結果、口臭の原因が口腔外にあると認められた場合、実際の施術に入ることとなります。虫歯や歯周病がみられるようであれば、それらの治療をまずおこないます。
また、口腔内のクリーニングを定期的におこなったり、自宅でできる歯磨きの方法などを指導したりします。さらに、生活習慣の指導や食習慣に関するアドバイスをすることで、口臭を根本から改善することを目指します。
口臭外来の相場
口臭の原因や検査法、治療法については理解して頂けたことと思います。ただ、実際に保険が依頼を受けようとするときに、気になるのは治療費なのではないでしょうか。そこで、口臭外来にはどれくらいの費用がかかるのかについて見ていきたいと思います。
費用
口臭外来にかかる費用は、保険診療なのか自由診療なのかで異なってきます。保険診療とは、病気やけがの治療をするときに、保険組合が治療費の大部分を負担してくれる制度のことを言います。
一般的には治療費の7割を健康保険組合が負担し、残りの3割を患者さんが負担することとなります。たとえば、治療が3,000円だった場合、実際に負担する金額は900円ということになります。
口臭の原因は実にさまざまなのですが、その原因が虫歯や歯周病出会った場合、その治療は保険診療の範囲内でおこなうことが可能となっています。そのため、費用も通常の虫歯、および歯周病の治療費と同程度で済みます。
ただ、口臭の原因が虫歯や歯周病ではない場合や、内科系の疾患がない場合で、「なんとなく臭い気がするので治したい」というようなときには保険が適用されない可能性があります。
また、口臭外来では実際にどれくらいの臭いがあるのか、臭気測定をおこなうのが一般的ですが、臭気測定は保険診療外となっています。
そのため、口臭外来で必要な治療費は、病院によって価格設定が異なるということです。一般的には初診料と検査料、施術日などを合わせて5,000円程度からの病院やクリニックが多いようです。
回数
口臭外来に何回通えばいいのかは、口臭の原因が何なのかによります。ちょっとした虫歯が原因であれば数回通うだけで口臭が改善されるでしょうし、重度の歯周病であれば、数ヶ月にわたって複数回の治療を受ける必要があります。
口臭外来によっては歯周病がしっかり完治するようにコースを組んでくれるところもあるみたいなのでカウンセリングの時に相談しておくことをおすすめします。
口臭改善で得られるメリット
口臭外来で治療を受けた結果、口臭が改善したような場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
口臭が改善される
口臭外来で得られるメリットとしては、当然といえば当然ですが口臭が改善されるということがあげられます。
虫歯が治る
口臭の原因が虫歯であった場合、口臭を改善するために、虫歯を治療することが必要となります。口臭外来で虫歯を治療することで、虫歯と口臭の両方が改善されることとなります。
歯周病が治る
口臭の原因が歯周病出会った場合、口臭外来の治療で歯周病を改善することが可能となります。その結果、口臭もなくなればまさに一石二鳥という訳です。
自分に自信を持てる
口臭は目に見えないものなので、実際には大した口臭ではないのに、自分の息が臭いと思いこんでいる人もいます。そのような人は、臭気判定によって数値的に口臭を確認することで、自分の息が臭くないことを知ることが出来、それが自信につながることもあります。
人を不快にさせない
自分自身も経験があると思いますが誰かの口臭のせいで不快な思いをしたことがあるのではないでしょうか。もし、自分の口臭のせいで周りの人が不快に思っていたとしたら申し訳ない気持ちになりますよね。口臭を改善することはエチケットです。
口臭は身だしなみの一部
口臭の原因と口臭外来について見てきましたが、いかがだったでしょうか。口臭の原因は実にさまざまです。もし口臭が気になるようであれば、口臭に関するプロフェッショナルのいる口臭外来を、まずは受診するようにしましょう。
口臭外来に行くことを恥ずかしがる必要はありません。口臭を気にすることは身だしなみを気にすることと一緒です。爽やかな息で沢山に人とコミュニケーションをとりより充実して過ごせるようになるといいですね!