便秘になった時、それを解消するために看護計画が立案されることがあります。看護計画って聞き慣れない言葉ですが、いったいなんなのでしょうか?
便秘に対して、看護の側面からどのようなアプローチがなされるのでしょうか。今回は、便秘の看護計画についてしっかりとご紹介します。
便秘とは
便秘の種類
急性便秘
急性便秘は、一過性に起こる便秘で、大腸の蠕動運動の低下が原因となることがほとんどです。
一過性の便秘とは、肉類を食べ過ぎた時や水分不足になった時に起こります。また、生活環境の変化などストレスが原因で起こることもある便秘です。
慢性便秘
慢性便秘は、数日間にわたって便が出ない状態が数週間以上持続するタイプの便秘です。高齢者に多い便秘です。
高齢者に多い便秘
弛緩性便秘
弛緩性便秘とは、腸の蠕動運動が低下してしまうことによって起こる便秘です。蠕動運動が低下すると、便を送りにくくなるので、腸の中に便がたまり便秘を起こします。
蠕動運動が低下する原因は、日常の生活習慣にある場合が大半です。たとえば、運動不足や食物繊維の不足です。
運動不足になると、筋力が低下してしまいます。筋力が低下すると腹筋も弱くなりますので、息む力が低下します。内臓を支える力も低下しますので、腸が緩みます。
食物繊維が不足すると、便の材料が減ってしまいます。便の量が不足し、送りにくくなります。加齢に伴う筋力の低下や食事量の減少による食物繊維不足は、高齢者に弛緩性便秘を引き起こします。
直腸性便秘
直腸とは、最後にある腸のことで、直腸にまで便が到達すると肛門から身体の外に排出されることになります。
直腸性便秘とは、直腸にまで便が送り届けられているにもかかわらず、肛門に問題があって身体の外に排出できなくなる便秘のことです。言い方を変えれば、肛門に問題があるのが原因なので、肛門の障害さえ取り除けば、改善できる便秘といえます。
直腸性便秘を起こす原因としては、便意を習慣的に我慢すること、痔や肛門周囲に傷や膿が出来ていること、便意を感じる神経の働きが低下することなどが考えられます。
高齢者に直腸性便秘が多いのは、便意を感じる神経の機能低下が起こるからです。
また、直腸性便秘は大腸自体には問題がないため、下剤を使うと下痢を起こしやすくなるという特徴があります。
便秘の原因
便秘はどうして起こるのでしょうか。便秘によって原因は異なります。
機能性便秘
機能性便秘の原因は、弛緩性便秘と痙攣性便秘に分けて考えます。
弛緩性便秘は、大腸の緊張や蠕動運動の低下によって起こります。弛緩性便秘の便は硬くて太く、便意や腹痛が少ないのが特徴です。
そしてその原因は、食物繊維の不足だけでなく、食事量そのものの不足や、運動不足、加齢による腹筋力や蠕動運動の低下、旅行や入院など環境の変化などが挙げられます。
痙攣性便秘は、大腸が痙攣を起こし、直腸に便が運ばれにくくなって起こる便秘です。緊張や動揺などの精神的なストレス、うつ病、認知症などが原因になって起こることが多いです。
器質性便秘
器質性便秘では、腸管の形態に異常がある場合と、腸管以外に異常がある場合に分けられます。
腸管の異常では、腫瘍や手術による瘢痕、癒着などによって腸管が狭窄したり捻転したり、閉塞したりすることが原因となる場合があります。
その他、痔や肛門周囲の傷や肛門の周囲に膿が溜まったりすることも原因となります。これは、排便時に痛みを生じるため、排便を抑えてしまうからです。
また、先天的に腸管に異常を生じる疾患によって起こることもあります。
腸管以外の原因としては、脳血管障害など神経系に障害が起こることで、排便反射が抑えられたり、便意が感じられなくなったりすることや、甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌系の病気により、腸粘膜が萎縮したり、蠕動運動が低下したりすることが挙げられます。
症候性便秘
症候性便秘は、背景に何らかの病気があります。
症候性便秘を引き起こす病気としては、腸閉塞や腸捻転、大腸がんや大腸ポリープ、直腸がんなどが挙げられます。
ただし、これらは代表例に過ぎません。他にも症候性便秘を引き起こす病気はあります。
薬剤性便秘
抗不安薬や咳止め薬、制酸薬、カルシウム製剤などの副作用として、腸の蠕動運動を低下させることがあり、便秘の原因となりえます。
また、モルヒネなどの麻薬では、小腸の運動を抑えたり、腸液の分泌を減らしたりさせます。これによっても便秘は起こります。
看護計画は看護過程の中の一つ
看護アセスメント
便秘の患者さんの看護を行なう上での第一歩が看護アセスメントの作成です。看護アセスメントを行なうために必要とされる情報は、大きくわけて5つあります。
①健康なときの排便習慣と、便秘を起こしている現在の排便の状態および、便の性状や量について
排便習慣として知っておきたい情報は、排便の1日あたりの回数、排便の間隔、排便時刻、排便に要する時間です。
便の性状や量の評価では、便の量、便の色、便の硬さ、便の臭い、便の太さ、便に混入物があるかどうかをみます。その上で、残便感があるかどうか、排便にどれくらいの努力がいるか、最後の排便はいつであったかを聞き取ります。
こうして便秘になる前と、便秘を起こした現在の状態とを比較します。
②排便への影響因子について
排便に影響する要因としては、食べ物の内容や食べた量、水分の摂取量だけでなく、日常生活のリズムや日々の運動量、ストレスの有無や性格、年齢、性別、なんらかの薬物治療をうけているかどうかが関係していきます。また、トイレの様式も影響因子に含められています。
③器質性便秘の有無や程度、そして原因
器質性便秘をひきおこしているかどうか、もし起こしているのなら、その程度や原因も調べます。
調べるべきこととしては、腫瘍や癒着などによる腸管の狭窄や閉塞、捻転の有無、痔や肛門周囲に膿がたまっていないかどうか、甲状腺機能低下症や糖尿病、高カルシウム血症などの内分泌疾患や代謝障害がないかどうか、脱水や全身衰弱をおこしていないかどうか、鉛中毒などの中毒症状がないかどうかが重要になってきます。
④機能性便秘の有無や程度、そして原因
機能性便秘を引き起こしているかどうか、その場合は程度や原因を調べます。
機能性便秘の場合は、うつ病などの精神的疾患がないかどうか、下剤や浣腸を乱用していないかどうか、排便を我慢していないかどうか、手術を受けたことがあるかどうか、妊娠の有無、薬の副作用の有無、寝たきり状態かどうかを重点的に調べます。
⑤便秘の症状の有無とその程度
おなかなど局所に現れてくる症状では、食欲不振、おなかの不快感、おなかの張った感じ、おなら、吐気や嘔吐、口臭などがあげられます。
全身的症状としては、不安感、不眠、イライラ感がないか、集中力の低下や意欲の減少がないか、頭痛の有無が起こりえます。
こうした症状が起こっていないか、起こっているならどの程度かを調べます。
看護診断
看護アセスメントで得られた情報をもとに診断を行ないます。
便秘の種類やその程度を明確化し、発生時期から現在に至るまでの経過を明らかにします。そして、便秘をきたすに至った原因を特定し、そのメカニズムを理解し、便秘の「成り行き」を明示します。
「成り行き」としては、便秘に伴う症状の悪化に伴い栄養状態が悪化したり、睡眠が妨げられたり、日常作業の効率が低下したりすることが考えられます。これらは、日常生活に支障を来しかねない重要な要因です。
また、硬くなった便を排出する際に、血圧が上昇したり、肛門が裂けたり、痔やヘルニアを悪化させるリスクが生まれてきます。
膀胱や尿管が便で圧迫されると、排尿障害も生じることがありますし、便が長く留まることで腸閉塞を起こしたり、結腸や直腸に潰瘍を作ることもあります。
こうした便秘の「成り行き」の問題点を確認して判断します。
看護計画
看護アセスメントと診断に基づいて看護計画を立案します。
まず目標を設定します。
目標を設定するために、その人の日常の排便回数、便の性状や量を理解します。これに問題がない限り、その状態に近づけることを目標にするからです。
客観的な数値目標も大切です。便秘には客観的な評価法として便秘評価尺度があり、その点数が5点以下になるようにします。
患者さんだけでなく、家族も食事や運動の大切さを理解してもらう必要があり、食事や運動を通じて便秘を予防したり改善したすることも、これも目標のひとつになります。
看護の進展に伴って効果を感じやすくするためにも、治療薬の使用量や回数が減少するという目標も大切です。
成り行きの問題が起きないように看護するのも目標に含まれます。
看護介入
看護計画が出来上がったら、それに従って対策を実行します。便秘の原因や誘因は人それぞれ異なります。各人で発生・増悪のメカニズムが異なっていることを踏まえて、適切に介入することが大切です。
看護評価
便秘に対する看護の評価は、目標に近づいたかどうかが、まず確認されます。
例えば、患者さんの便秘が起こる前の排便の回数や便の性状に近づいたかどうか、患者さんや家族が食事療法や運動療法などをきちんと理解できて実行できているかどうかです。
また、便秘評価尺度も評価されます。5点以下になると好転と判断されます。他、治療薬の使用回数や量も減少しているかどうか調べます。
こうした点を調べてみて、目標に近づいていないと判断が下された場合は、看護計画のどこに問題があったかを追求し、改善させるようにします。
便秘の看護計画
実際の看護計画は、観察項目(OP)、看護療法ともよばれるケア項目(TP)、教育項目(EP)から構成されます。
観察項目(OP)
- 排便の状態とベンの性状や量の変化をみます。
- 便秘に伴うお腹の症状などの変化を確認します。
- 便秘を引き起こす要因が減っているかなど調べます。
- 便秘の「成り行き」が認められるかどうかをチェックします。
- 便秘の検査結果に変化が生じているかをみてみます。
- 便秘の治療に効果が現れているか、副作用は発言していないか、確認します。
- 患者さんや家族の治療に対する反応を観察します。
ケア項目(TP)
①排便習慣の確立
生活環境を調整したり、定期的な排便を試みたり、排便を我慢させないなど日常生活習慣の見直しをします。
②食事療法時の援助
水分の適切な量は、1日あたり2[l]です。水分の摂取制限がなければ、これくらいの摂取を心がけてください。
朝目覚めた直後にコップ1杯程度のお水や牛乳を飲むのも効果的な対策です。
食物繊維の豊富な野菜や果物、いもや海藻類、こんにゃくなどを食べましょう。食物繊維がおなかの粘膜を刺激して、腸の蠕動運動を促すからです。
ビフィズス菌を摂取するのも蠕動運動を促進するのでおすすめです。
脂肪性食品には、潤滑剤のような働きがあるので、肝臓や膵臓に問題がないなら摂取を心がけましょう。
③運動療法の援助
ウォーキングなどの全身運動をすると効果的です。ウォーキングができない場合は、座った状態で膝を片方ずつ胸の辺りまで曲げる運動で代用します。
ウォーキングのほか、お腹のマッサージもおすすめです。
大腸の走行に沿って、”の”の字を描くように、1回5分、1日あたり2〜3回しましょう。”の”の字を描くときは、およそ3[cm]くらいお腹が凹む圧力を加えると効果が高まります。
④湿布
腰を温湿布で温めると、腸の蠕動運動を促進します。
⑤不安の軽減とリラックス化
精神的な緊張感は便秘を引き起こします。不安や緊張を解きほぐし、リラックスした生活が送れるようにします。
⑥飲み薬の管理
下剤に頼りすぎていると習慣化したり、量が増えていったりします。
薬剤を正しく使い、適切な量を使うよう管理します。
⑦浣腸など
ある一定の期間、排便が起こっていないなら浣腸したり坐薬を入れたりします。肛門に近いところにたまっているなら、便を摘出してあげると効果的です。
教育項目(EP)
①排便について正しく理解できるよう説明・指導します
「健康な人には、毎日必ず排便が起こる」などの便秘に関係する誤った考え方をなおします。毎日排便がなくても、不快感や排便に難しさを感じなければ心配ないことを説明し、患者さんが不安に感じないようにします。
②観察項目のうち、主観的に判断できるものを報告できるようにします
便秘は、再発したり習慣化したりしやすいものです。便秘の改善だけでなく患者さんが自ら便秘を予防できるように排便の自己管理について指導します。
そして日常生活で便秘が悪化する前に、早い段階で徴候に気づけるようにします。
③便秘を改善するためにケア項目の①〜③と⑥について説明・指導します
食事療法を成功させるためには、患者さんだけでなく家族の理解や協力が欠かせません。そこで患者さんの食事を実際に管理する立場にある家族の方にも説明し・指導し、協力を得るようにします。
看護計画とは改善計画
つらい便秘を少しでも早く解消するために、看護計画が立案されることがあります。
看護計画とは聞き慣れませんが、観察・ケア・教育の3つからなる改善計画です。一人で便秘に立ち向かうのではなく、計画的に家族や看護師の協力を得て、便秘の解消を図ります。