最近になって、日本でもホワイトニングをおこなう人が増えてきました。ホワイトニングをおこなう際には、専用のホワイトニング用薬剤を用いることとなるのですが、その薬剤にはどういった特徴があるのでしょうか。今回は、皆様に安心してホワイトニングを受けてもらえるように、ホワイトニングに用いる薬剤の効果や安全性について、徹底解説していきたいと思います。
歯を白くする方法
ホワイトニングに用いられる薬剤について紹介する前に、まずはホワイトニングによってなぜ歯を白くすることができるのかについて解説しておきたいと思います。
エナメル質のマスキング効果
ホワイトニングによってなぜ歯を白くすることができるのでしょうか。それにはまず、歯の構造について知っておく必要があります。
私たちが「歯を磨く」などという場合には、一般的に歯茎からのぞいている部分=「歯冠部(しかんぶ)」のことを指していることがほとんどです。
歯冠部は簡単に説明すると、エナメル質、象牙質、歯髄(いわゆる歯の神経と呼ばれる部分)から構成されています。エナメル質はもともと半透明をしており、象牙質は黄色っぽい色をしています。
そのため、エナメル質の層が薄くなったり、象牙質が透けて見えたりすることによって、歯が黄色っぽく見えてしまうのです。
ホワイトニングをおこなうと、マスキング効果と言って、歯の表面にあるエナメル質を曇りガラス状にする効果が得られます。そのメカニズムを理解するためには、エナメル層の構造について知っておくことが重要です。
歯の表面にあるエナメル層は、エナメル小柱と呼ばれる束が集まってできています。柱というくらいなので、先端が四角くなっているのですが、そのため、歯の色に濃淡ができてしまうのです。
ホワイトニングをおこなうと、エナメル小柱の先端を丸くすることが可能となります。それによって、歯に当たる光が乱反射して、歯の色が白く見えるという訳なのです。
象牙質の黄ばみをとる訳ではない
ホワイトニングには、先ほど述べたマスキング効果と、あとで説明する歯の着色物質を取る効果があります。ただし、象牙質そのものを漂泊するような効果はないと考えられています。
ホワイトニングについてインターネットで検索すると、専門知識のない素人が書いた記事と、歯科医師や歯科衛生士が書いた医学的根拠のある記事が玉石混淆となって出てきます。
歯科医師や歯科衛生士の書いている記事を複数みてみれば分かることですが、いずれもホワイトニングは歯のエナメル層に対してアプローチする方法であり、象牙質を漂泊するような効果はないと書かれています。
エナメル質に沈着している着色(有機物質)を取る
ホワイトニングに用いられる薬剤には、エナメル質の構造を変化させるだけでなく、エナメル質に沈着している着色物質を取り除く効果もあります。
歯が黄色く見えてしまう原因はさまざまですが、象牙質が透けて黄色っぽく見えてしまう以外にも、エナメル質に着色物質が沈着して、歯の色が黄色くなっているケースがあります。
後で詳しく説明しますが、ホワイトニング剤に含まれている過酸化水素には、歯に沈着した着色物質を取り除くことで、歯の本来持っている色を取り戻す働きがあるのです。
ホワイトニングの薬剤の成分
ホワイトニングによって歯が白くなるメカニズムについては、理解して頂けたことと思います。それでは次に、どのような薬剤にどのような効果があるのか、個別具体的に見ていきたいと思います。
オフィスホワイトニングで使用する【過酸化水素】
オフィスホワイトニングと言って、デンタルクリニック(歯科医院)でおこなわれるホワイトニング方があります。そして、オフィスホワイトニングで用いられる薬剤には、過酸化水素が含まれています。
どのような成分か?
過酸化水素は、化学式「H2O2」で表わされる化合物で、消毒薬として用いられるオキシドールに含まれていることがよく知られています。
対象となる物質に応じで、酸化・還元という全く異なる反応を示す特徴があり、消毒以外にも漂白や殺菌目的で使用されることがあります。
白くなるメカニズムは?
過酸化水素は、口内で水と活性酸素とに分かれます。活性酸素は化学的にとても不安定な構造をしているため、その他の物質から電子を奪うことによって、化学的に安定しようとする性質があります。
活性酸素のそのような特徴を利用して、歯の表面に付着した着色物質を取り除くことが可能となるのです。それによって、歯は本来の色を取り戻すこととなります。
また、過酸化水素には先に述べたマスキング効果があることから、歯の表面にあたった光を乱反射させ、歯の色を透明感のある白色に見せてくれるのです。
人体への悪影響は?
過酸化水素は危険物第6類に分類されていることからも分かるように、慎重に取り扱われる必要があります。ホワイトニング剤として用いられる過酸化水素は、水で適度に薄められているため、人体に悪影響を及ぼすようなことはありません。
ただし、高濃度の過酸化水素の溶液は「医師、もしくは医師の指導のもとで歯科衛生士が取り扱う」ということが法律によって定められています。
ホームホワイトニングで使用する【過酸化尿素】
歯科医院でおこなうタイプのホワイトニングであるオフィスホワイトニングに対して、自宅でおこなうタイプのホームホワイトニングという方法があります。
ただ、自宅でおこなうと言っても自分で勝手におこなう訳ではなく、医師によって処方されたホワイトニング剤を専用のマウスピースに塗布し、それを歯に装着することで歯を白くしていきます。
どのような成分か?
過酸化尿素は、過酸化水素と尿素が合わさったものです。ホワイトニング剤として用いられる場合、濃度が10%、15%、20%などといった具合に、段階的に分けられています。
白くなるメカニズムは?
過酸化尿素の含まれたホワイトニング剤で歯が白くなるメカニズムは、過酸化水素の場合と同じです。というのも、過酸化尿素に含まれている過酸化水素が、ホワイトニング効果を発揮するからです。
人体への悪影響は?
過酸化尿素も過酸化水素と同じく、人体に悪影響を及ぼすようなことはありません。アメリカのFDA(米国食品医薬品局、日本でいうところの厚生労働省)によっても、安全性が確認されています。
また、たび重なる使用をした場合であっても、ホワイトニング剤によって発がんするようなことはないという研究結果が出ています。もちろん、歯がボロボロになったり弱くなったりするようなこともありません。
過酸化尿素も過酸化水素と同様、国家資格を有する医師や歯科衛生士でなければ扱うことができません。自宅でホワイトニングをおこなう際には、医師や歯科衛生士の指導に基づいて、ホワイトニング剤を用いることが重要です。
セルフホワイトニングで使用する【ポリリン酸ナトリウム】
ホワイトニングには、医師や歯科衛生士がおこなわない、セルフホワイトニングという方法もあります。とは言っても、自宅でおこなう訳ではなく、専門のホワイトニングサロンに出向いて、そこでおこなうこととなります。
セルフホワイトニング専門店には、スタッフはいるものの、スタッフがホワイトニングをする訳ではありません。なぜなら、口の中を生業として診てよいのは、国家資格を有する医師、もしくは歯科衛生士だけだからです。
また、過酸化水素や過酸化尿素といったホワイトニング剤も、医師や歯科衛生士にしか扱うことができないため、セルフホワイトニングでは、食品添加物や化粧品として用いられるポリリン酸ナトリウムが用いられることとなります。
その他にも、顔料や着色料として用いられる酸化チタンや、やはり食品添加物として用いられるメタリン酸ナトリウムが用いられることもあります。
どのような成分か?
ホワイトニング剤として用いられるポリリン酸ナトリウムは、「短鎖分割ポリリン酸」と呼ばれるもので、歯の表面に付着した着色物質を取り除く効果のほか、歯をコーティングする効果もあるとされています。
白くなるメカニズムは?
セルフホワイトニングで用いられる代表的なホワイトニング剤が、ポリリン酸ナトリウムを配合したホワイトニング剤ですが、ポリリン酸ナトリウムには歯の表面に付着した着色物質を取り除く効果があります。
そのため、タバコのヤニによって歯が汚れていたり、着色料などによって歯が汚れていたりする場合、セルフホワイトニングの効果が発揮されることとなります。ただし、過酸化水素や過酸化尿素のように、歯そのものを白くする効果はありません。
人体への悪影響は?
ポリリン酸ナトリウムは食品添加物として、ハムやミートボールなどに含まれており、適量であれば人体に悪影響を及ぼすようなことはありません。
ホワイトニングの薬剤を使用する注意点
ホワイトニングの方法にはいろいろあることが分かって頂けたのではないでしょうか。それでは、ホワイトニング剤を使用するにあたって、どのようなことに注意すればよいのかを確認していきましょう。
使用期限を守る
ホワイトニング剤に限ったことではありませんが、医薬品は使用期限を守ることが重要です。また、使用期限内であっても、開封してから半年以上たったものは使わない方がよいとされています。
海外製品の使用を避ける
日本では過酸化水素や過酸化尿素は医師、もしくは医師の指導のもとで歯科衛生士が使用することと法律で定められています。
ただ、海外には過酸化尿素を配合した歯磨き粉が一般的に販売されているケースもあり、それを個人輸入で購入して利用することは可能となっています。
ただ、日本人の歯の質に合わないケースも多く、海外製のホワイトニング剤の使用は推奨されていません。また、何らかのトラブルがあった場合、自己責任ということになってしまいます。
歯に傷がつかないように気を付ける
ホワイトニングをおこなっている期間中は、歯に傷がつかないように気をつけましょう。よくあるのが、歯の磨きすぎによって、歯のエナメル質を摩耗してしまうようなケースです。
それ以外にも、歯ぎしりや歯のくいしばりによって、歯のエナメル質を摩耗させるケースがあります。エナメル質は身体の中でもっとも硬い物質であり、外部の刺激から歯を守ってくれています。
ところが、エナメル質が摩耗して象牙質が露出してしまうと、知覚過敏が起こりやすくなってしまいます。当然のことながら、虫歯や歯周病はもってのほかです。
ホームホワイトニングの薬剤は冷暗所に保管
ホームホワイトニングで用いられるホワイトニング用の薬剤は、原則として冷暗所に保管することが重要となっています。歯医者さんでホワイトニング剤をもらった場合、帰宅したら冷蔵庫で保管するようにしましょう。
ホワイトニングの歴史
ホワイトニングは最近になっておこなわれるようになったイメージがありますが、実際にはいつごろからおこなわれていたのでしょうか。その歴史について紐解いてみたいと思います。
実は、ホワイトニングの歴史は意外と古く、世界初のホワイトニングは今から150年以上も前の、1844年におこなわれたという記録があります。
最初は硝酸塩(いわゆるミョウバン)を利用していたため、そのホワイトニング効果はさほどではなかったということです。
現在のように、ホワイトニング剤を歯に塗布して、特殊なライトを照射するというホワイトニングの原型ができたのは1918年のことで、たまたま日光浴をしていた医師によって発見されたということです。
オフィスホワイトニングとホームホワイトニングを比べた場合、ホームホワイトニングの歴史が古く、1968年には過酸化尿素を利用したホワイトニングがおこなわれるようになったということです。
ホームホワイトニングも偶然の産物のような側面があります。というのも、歯周病の治療薬として用いられていた過酸化尿素に、ホワイトニング効果のあることが分かったからです。
オフィスホワイトニングが実用されたのは1990年代初頭になってからで、歯に過酸化水素を塗布して、特殊なライトを照射するというホワイトニング法が開始されたのです。
自分で取り扱う場合は注意しましょう
ホワイトニングは国内でも症例実績が多くあり、日本で利用されているホワイトニング剤は濃度も安全に決められているため、安心して施術を受けることができます。取り扱い方法にだけは気を付けて、安心して歯を白くしましょう!