口臭の原因は実にさまざまですが、中には、口の中に問題がないケースもあります。たとえば、胃が悪いことで口臭がしてしまう、ということを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
口臭はコンプレックスにもなりかねないので、なるべくなら早く解消したいものですよね。今回は、胃が原因で起こる口臭や、その対処法について紹介したいと思います。
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口臭の原因
一口に口臭と言っても、その原因は実にさまざまです。胃がもたれやすいからと言ってすぐに口臭を胃のせいにすることなく、まずは口臭の原因について知っておきましょう。
口臭の原因8割以上は口の中に
口臭の実に8割以上は、口の中に原因があるとされています。では、どのような原因があるのでしょうか。簡単にですが見ていきたいと思います。
生理的口臭
誰にでも多かれ少なかれ口臭はあるものですが、病的な口臭ではないものとして「生理的口臭」というものがあげられます。
生理的口臭はその名前からも分かるように、誰にでも起こりうる口臭のことを意味します。多くの場合、唾液の分泌量が減少することによって起こるという特徴があります。
たとえば、寝ている間に口内の水分量が減少して起こるタイプの「起床時口臭」や、空腹のときに見られる「飢餓口臭」、緊張して口の中がカラカラになったときに見られる「緊張時口臭」などが生理的口臭に当たります。
生理的口臭な一般的に、病的口臭ほど臭いが強くなく、よほど近寄って臭いをかいだりしない限り、他人に不快感を与えるようなことはありません。
また、朝起きてから水分補給をしたり歯を磨いたり、食事をしたりすることによって、生理的口臭は自然と和らいでいくものです。病院を受診するような必要はめったにありません。
歯周病
口の中に原因がある口臭としては、歯周病もその1つにあげられます。歯周病がある時の口臭は、生理的口臭と比べるとニオイがきついという特徴があります。
それは、歯周病菌によって発生する揮発性硫黄化合物にその原因があります。生理的口臭の場合に発生する揮発性硫黄化合物は「硫化水素」と呼ばれる、比較的臭いの弱い物質です。
ところが、歯周病菌によって産生される揮発性硫黄化合物は、「ジメチルサルファイド」や「メチルメルカプタン」といって、硫化水素と比べると臭いが強い物質となっています。
「自分はまだ若いから歯周病なんて関係ない」と思っているあなた、そんな人こそ歯周病予備軍になっている可能性があります。
なぜなら、日本人は20代でもおよそ70%の人が歯周病に罹患しているというデータがあるからです。若いからといって、決して油断することはできないのです。
歯周病は30代になると80%の人が、60歳を過ぎると90%の人が罹患しているとされています。なぜこれほど歯周病患者さんが多いのかというと、日本人には予防歯科の概念があまりないということが原因としてあげられます。
予防歯科の先進国であるスウェーデンでは、80歳の時点で平均して25本の自前の歯が残っているということです。これは、定期的に歯科健診を受ける人が多いことの結果となっています。
それに対して、日本人の80歳時点での平均残存歯数は、たったの8.8本(6.8本というデータも)しかないということです。
なぜこのようなことになっているかというと、日本で定期的に歯科健診を受けている人の割合が、たったの2%だからです。スウェーデンでは実に90%もの人が、定期的に歯科健診を受けているということです。
歯周病がこれほどはびこっているもう1つの理由として、歯周病の初期段階ではこれといった症状がないということがあげられます。
虫歯であれば痛みがあったり、冷たいものが歯にしみたりするので、あわてて歯科医院を受診することとなりますが、歯周病の初期には特に痛みなどがないため、ついつい放置してしまいがちになるのです。
歯周病が進行すると、揮発性硫黄化合物による口臭だけでなく、歯茎にたまった膿から臭いを発するようになります。歯周病患者さんの息が臭いのはそのためなのです。
機械的刺激
機械的刺激などと書くと難しく思われるかもしれませんが、簡単に言うと物理的な刺激のことです。口の中に生じる物理的な刺激としては、歯並びが悪いことによって口内が傷つくことや、入れ歯が合わないことで口内が傷つくことなどを意味します。
機械的刺激によって損傷を受けた部位に細菌が繁殖すると、それを退治しようと白血球が集まってくることとなります。
細菌と戦って死んでしまった白血球は膿となります。それが臭いを発すると、呼気に乗って外へと排出され、口臭となって現れるという訳なのです。
残りの1割は胃腸から
口臭の原因のほとんどは、口内に何らかのトラブルが生じることによって発生します。残りの1割程度が、胃腸など内科系の疾患によってもたらされるということです。
まずは歯医者さんを受診しよう
口臭が気になるような場合、どこで診てもらえばいいのでしょうか。胃腸の調子がもともと悪くて口臭がするような場合、すぐに内科や消化器科を受診した方がよいのでしょうか。
口臭が気になっているのでその原因が知りたい場合や、口臭を改善することが目的で病院を受診する場合、まずは歯科医院や口臭外来を受診するようにしましょう。
口臭を専門に扱っている歯科医院や口臭外来には、専用の口臭測定器があります。それによって、口臭のレベルや、どのようなニオイ物質が出ているのかを判定することが可能となります。
判定の結果、口腔内のトラブルが原因で口臭を発しているのであれば、歯科医院や口臭外来で治療をおこなうこととなります。また、口腔外のトラブルが原因で口臭を発しているのであれば、適当な科を紹介されることとなります。
胃腸が原因の口臭
ここまでの説明で、口臭の原因のほとんどが口内にあることを理解して頂けたことと思います。それでは次に、今回のメインテーマでもある胃腸が原因の口臭について見ていきたいと思います。
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは、胃の中にある消化液が食道を逆流することによって、食道に炎症を起こし、それによって胸やけや胸痛などを訴える疾患で、日本人にはよくみられる疾患としても知られています。
通常、胃と食道との間には下部食道括約筋という弁の役割を果たす筋肉があるので、胃液が逆流してくるようなことはありません。
ところが、肥満や加齢、不良姿勢や妊娠などによって胃液が逆流しやすくなったり、胃酸の量が増えすぎてしまったりすることによって、逆流性食道炎を発症するリスクが上昇するのです。
胃は粘膜によって保護されているため、胃液によって炎症を起こすようなことは(通常は)ありません。ところが、食道には酸から守るための粘膜がないため、胃液によって傷つけられてしまうのです。
逆流性食道炎の特徴としては、胃酸に食道が傷つけられることによる胸やけの他にも、胃液によるのどの炎症、口内炎、のどの違和感などさまざまな症状が現れることがあげられます。
中でも呑酸といって、胃液特有の酸っぱい臭いをした液体がのど元まで上がってきて、げっぷとして排出されるという症状もあります。それが、逆流性食道炎による口臭の原因となっています。
それ以外の腸の病気
腸に起こる疾患としては、十二指腸潰瘍や大腸がん、潰瘍性大腸炎などさまざまなものがありますが、基本的には食道便があるので、逆流性食道炎のように胃から臭いが昇ってくるようなことはありません。
ただ、腸の機能が低下することによって便秘が慢性化すると、口臭から大便のようなにおいがするケースもあります。
大便が腸管内に長くとどまっていると、やがて便が腐敗し始めてメタンガスを生じます。メタンガスは血液中に溶け出して、やがて肺に達します。そして、メタンガスに含まれているニオイ物質が呼気から排出されることによって、大便のような臭いの口臭がすることとなるのです。
胃腸が弱い方の口臭には?
胃腸が悪い人に見られる便のような口臭や、逆流性食道炎の人に見られる酸っぱい臭いのする口臭は、どのようにして対処すればよいのでしょうか。
胃薬を飲む場合は
逆流性食道炎によって酸っぱい臭いのする口臭が出ているような場合の治療法としては、生活指導や薬物療法、外科的治療などがあげられています。
薬物療法と一口に言ってもさまざまで、何が原因で胃腸に不調をきたしているのか、慎重に判断して投薬をおこなうことが重要です。
病院にかかっていないような場合は、市販の胃薬を飲んで対症療法をおこなうこととなりますが、やはりまずは病院を受診して、しっかりと検査してもらうことが大事です。
総合的に胃腸を整えるタイプ
全体的に消化器系の働きが弱くなっているような場合、胃腸の機能を総合的に高めるための医薬品が処方されることとなります。
たとえば、胃や食道の機能が低下して食べ物がなかなか腸へと送られていかないような場合には、胃や食道の食べ物を送り出す機能を亢進するような医薬品が用いられることとなります。
また、漢方的な視点から、長期間にわたって身体への悪影響が少ない漢方薬を継続的に服用したり、食事療法によって、胃腸の機能を向上させたりするような方法もあります。
胃酸過多を抑えるタイプ
胃酸の量が増えすぎることによって逆流性食道炎を発症しているような場合には、胃酸の分泌を抑えるための医薬品が処方されることとなります。胃酸の分泌を抑制する医薬品は、特に逆流性食道炎を改善する効果が高いことで知られています。
また、胃酸過多が起こっているようなときには、前傾姿勢によって逆流性食道炎が起こりやすくなることもあります。医師によっては、生活指導によってそのような逆流性食道炎が起こるリスクの低下も図っています。
消化不良改善タイプ
消化不良が原因で逆流性食道炎を起こしているような場合、消化管の運動機能を改善するための医薬品が処方されることとなります。それによって、食道の運動を正常化し、食べ物がスムーズに胃から腸へと送られるようにするのです。
胃腸からの口臭の注意点
ここまで、胃腸が原因となって現れる口臭や、胃腸の機能を改善する治療法について見てきました。ただ、胃腸の治療をおこなっていても口臭が治らないような場合、以下のようなことに注意する必要があります。
良くならない場合は病院へ
胃薬を飲んでも口臭が改善しないような場合は、速やかに医療機関を受診するように心がけましょう。口臭が気になるのであれば、まずは歯科医院や口臭外来を受診するのが先決です。
先ほども述べたように、口臭を専門としている歯科医院や口臭外来には、専用の口臭測定器があるため、何が口臭の原因となっているのかを正確に判定してくれるからです。
ストレスを溜めないことも重要
口臭を予防するためには、ストレスをため過ぎないことも重要です。ストレスは万病のもとなどといわれますが、ストレスによってどこに悪影響が出るかは人それぞれです。
ストレス状態が継続すると、自律神経のバランスが乱れることとなりますが、そのようなときに最初にやられるのが粘膜だとされています。
自律神経のバランスが乱れやすい春先に花粉症が多くみられるのも、粘膜がやられるからにほかなりません。当然のことながら胃腸も粘膜で覆われているので、自律神経のバランスが乱れることによって症状が悪化するケースもあります。
ストレスがたまっている実感があるような場合は、好きなことに没頭したり、適度に身体を動かしたりして、ストレスを発散するように心がけましょう。
胃腸が良くなっても口臭がする場合は歯医者へ
胃腸の治療をおこなって、胃腸の機能が正常化したにも関わらず、まだ口臭がするような場合、やはり口内に何らかの原因のあることが考えられます。そのような場合には、歯科医院を受診するとよいでしょう。
口臭はまずお口の中を疑ってみましょう
口臭が胃薬によって改善することもあるということですが、そのようなケースはむしろ少ないと言えそうです。もし口臭が気になるのであれば、まずは歯科医院や口臭外来を受診して、口臭の原因を特定することから始めましょう。