首のところに瘤のようなものができたのだけど、ニキビだと思って放置していたら、だんだんと大きくなってきた。家族からは臭いといわれるし、どうしたらいいのか分からない。インターネットで調べたら、もしかしたら粉瘤かも知れないと疑い始めた。…そんな方のために、今回は粉瘤とは何なのか、そしてどのように対処したらよいのかについて東京で粉瘤治療で評判の大島昇医師(渋谷駅前おおしま皮膚科)に質問をしてみました。
CONTENTS
粉瘤(アテローム)とは何?
粉瘤(ふんりゅう)はアテロームとも呼ばれており、必ずしも珍しい疾患という訳ではありません。表皮の内側に皮膚と同じような構造でできた袋が生じ、その中に本来であれば剥がれおちるべき角質(垢)や皮脂がたまっていきます。簡単にいうと、「皮膚の下に、皮膚でできた袋ができる」というのが粉瘤の特徴です。袋の中にたまった角質や皮脂は、袋の外に出ることができないため、徐々にたまって大きくなっていきます。
粉瘤は毛穴の一部の組織が、毛穴の深いところで袋状になることが多く、一見したところ、ニキビと間違ってしまいがちです。毛穴のところにできた粉瘤は開口部を持つことが多く、ニキビと同じように、圧迫すると臭くてドロドロとした、油状のものが出てくるケースもあります。ニキビと違うのは、ニキビの場合、自然に治ることもありますが、粉瘤の場合絞り出しても内容物以外の袋はとれず、また垢がたまり大きくなって膨れてくるという点です。
また、粉瘤と似たようなものとして「脂肪腫」があげられます。脂肪腫は皮下の脂肪細胞が増殖したものであり、粉瘤とは全く異なるものです。粉瘤は身体のどこにでもできるものですが、特にできやすい場所としては、顔や首、背中や臀部などが多いと言われています。
粉瘤は皮膚の良性腫瘍であり、放置しておいてもガン化するようなことはほとんどありません。腫瘍と聞くと驚かれるかもしれませんが、もともと腫瘍にはガンという意味はありません。
腫瘍の「腫」には「はれもの」といった意味があり、「瘍」には「できもの」といった意味があります。つまり、腫れてできたもののこと一般を腫瘍と呼んでいるのです。ガンなどは悪性腫瘍に分類されます。ただ、放置しておいてもガン化するようなことはないというものの、粉瘤に炎症を起こすことによって赤く腫れて痛みが出てきます。やはり早期に取り除く必要があります。
ごくまれなケースではありますが、粉瘤のガン化がないわけではありません。極めてまれですが、経過が長く数回炎症を繰り返し続けた粉瘤がガン化したという報告もあります。後ほど詳しく紹介しますが、粉瘤は基本的には自然治癒する疾患ではありませんし、原則として皮膚科を受診して、取り除いてもらう必要があります。
粉瘤(アテローム)の原因
粉瘤ができやすい場所や、粉瘤の特徴について簡単に説明したところで、次に、粉瘤ができる原因について見ていきたいと思います。
粉瘤ができる原因なのですが、現代医学をもってしてもハッキリとしたことが分かっていない、というのが現状です。
毛穴を模倣した良性の腫瘍と言われておりますが、繰り返しできやすい方はケラチン遺伝子の異常であったり、外傷や傷跡、時には手術痕からできたり、また手足にできる粉瘤はウイルス感染との因果関係が示唆されています。
粉瘤(アテローム)は自分で対処できる?
粉瘤はニキビと似たような外見をしているところから、潰して中身を出してしまえばいいのではと考えてしまいがちです。では、粉瘤は自分で対処できるものなのでしょうか。
粉瘤(アテローム)は自分で潰してはだめ
粉瘤を自分でつぶすことは原則として控えた方がよいでしょう。ニキビとは違って、粉瘤は皮膚の下に皮膚でできた袋が形成される皮膚疾患です。単純に毛穴の中に皮脂や角質が入りこみ、炎症を起こすニキビとは根本的に異なっているのです。ニキビですら、自分で対処すると細菌感染を起こし、醜い傷跡を残してしまうことがあります。
粉瘤は先ほども述べたように、自然治癒することはありませんし、自分で摘出するようなこともできません。ましてや、潰したからと言って解決する問題でもありません。粉瘤の排膿するとドロドロとした膿のようなものが出てきて見た目小さくなるケースもありますが、それによって粉瘤の袋が消失するようなことはありません。
自己判断で粉瘤を圧迫したり潰したりすると、かえって悪化することもあるため、粉瘤は潰さないようにしましょう。
粉瘤(アテローム)を自分で潰すとどうなるの?
粉瘤を自分でつぶしてしまうと、細菌感染や粉瘤の袋がやぶけて炎症反応が誘発されることがあります。
細菌に感染してしまった粉瘤のことを、特に「炎症性粉瘤」と呼んでいます。炎症性粉瘤を発症すると、さまざまな症状が表れます。炎症性粉瘤の症状を理解するためには、炎症の5大徴候について知っておきましょう。炎症を起こした部分には、5大徴候と呼ばれる症状がみられます。
それは、「発赤」「腫脹」「熱感」「疼痛」「機能障害」の5つです。順番に見ていくと、炎症を起こすとまず発赤(ほっせき)がみられます。その名の通り、患部が赤みを帯びるということです。その次に、腫脹と熱感、疼痛が発生します。腫脹は腫れあがることを意味し、熱感は患部が熱をもつことを意味します。疼痛は「疼くような痛み」であり、脈打つようなズキンズキンとした痛みのことを言います。機能障害は、炎症によって患部の機能に障害をきたすことです。たとえば、足首をねんざして炎症がみられると、足首が動きにくくなりますよね。粉瘤も炎症を起こすと、その部位に痛みが生じ、日常生活に制限が生じることもあります。
粉瘤を潰して炎症性粉瘤になった場合、先述した内容以外にも、数回も炎症を起こした粉瘤は小さい傷での切除の対象とはならず、大きく切除をしなければならなくなったり再発率が高くなるということです。1~2回の炎症でしたら基本小さい傷のくりぬき法での切除は可能ですが、それ以上炎症を繰り返している場合は内部で粉瘤が癒着していたり、飛び散っていたり、大きくとっても再発する可能性が高くなります。
粉瘤の摘出手術を希望されるほとんどの方が、粉瘤が炎症を起こしてから実際に皮膚科などを受診するということなのですが、当院では炎症中もその場で全摘のくり抜き法もしくは切開し排膿をすることが多いのですが、抗生剤内服のみ等ですと、すぐに痛みが改善されず、痛みの期間が延びてしまうのです。
粉瘤(アテローム)の薬は効かない?
粉瘤の治療にあたって薬を用いることもありますが、それは、粉瘤自体を治すためのものではありません。粉瘤は言ってみれば、皮下に垢がたまる疾患なので、薬によって排出することはできないのです。粉瘤の治療に使われる薬としては、抗炎症作用のある鎮痛剤や、経口摂取する抗生物質、抗生物質入りの軟膏などの塗り薬があります。
また、粉瘤を取り除く手術をおこなったあとには、痛みどめや塗り薬、抗生物質を念のため処方します。また炎症中の粉瘤に対してすぐに手術ができない病院では、炎症中にも抗生剤、痛み止め等を処方します。
ただし根治術につながるのは基本は手術であるため、当院では基本炎症中の粉瘤の患者様には当日切除をしております。
また、痛みどめや塗り薬、手術後の抗生物質などは、手術の傷跡が痛むのを抑えたり、二次感染を防いだりする目的で用いられます。粉瘤の根本的な治療法はあくまでも、粉瘤の摘出手術となっています。薬によって粉瘤を治すことはできないのです。
粉瘤(アテローム)の手術方法
粉瘤は原則として手術によって取り除く必要があるということでした、それでは、粉瘤の手術方法について見ていきたいと思います。粉瘤の手術方法としては、大きく分けて以下の2つがよく知られています。
粉瘤の手術法①紡錘形(レモン型)に切除する
粉瘤の手術法は、かつては紡錘形に切除するというのが一般的でした。粉瘤がある部位を皮膚ごと紡錘形に切除し袋ごと取り除くというものです。
粉瘤は、袋ごと取り除かないと再発してしまうため、切開して袋ごと除去することが推奨されていました。ただ、切開すると、傷跡の大きくなるというデメリットがあります。おしりなどの目立たないところでしたら、切開してもかまわないのでしょうが、顔にできた粉瘤を切開して取り除いた場合、傷跡が目立つこととなってしまいます。
特に女性の場合、顔に傷痕が残ることは、できるだけ避けたいことだと思います。そこで、次に紹介するくりぬき法とか、へそ抜き法などと呼ばれる手術法が開発されたのです。
粉瘤の手術法②くり抜き法・へそ抜き法
粉瘤の手術法としては、くりぬき法とかへそ抜き法と呼ばれる手法もあります。傷跡が小さくて済むことから、最近になって主流となりつつある手術法です。
くりぬき法やへそ抜き法をおこなう場合、まずは粉瘤のある場所をマーキングしていきます。その後、周囲に局所麻酔を施し、生理食塩水を注入することで、皮膚と周囲の組織の間を剥離していきます。
次に、「トレパン」と呼ばれる、患部に穴をあける器具を用いて、粉瘤の袋を貫通するまで切っていきます。くりぬいた時点で、中から溜まっていた垢や皮脂の出てくるケースがほとんどです。穴を開けたら、ブドウの皮からブドウの実を絞り出すようにして、可能な限りの内容物を絞り取っていきます。小さな粉瘤の場合、この段階で垢や皮脂の溜まっていた袋まで取れてしまうこともあります。
長年にわたって粉瘤を患っていた人の場合、排出された垢や皮脂からチーズの腐ったような臭いがすることもあります。内容物を出し切ったら、専用の器具を用いて、垢や皮脂がたまっていた袋を切除していきます。粉瘤の袋を摘出すると、皮膚にぽっかりと穴が空いたような状態になります。ここまで来るともうすぐ手術は終わりです。粉瘤の取り残しがないかを確認し、傷跡を縫合します。
くりぬき法やへそ抜き法の場合、傷跡が小さいことから、傷跡が目立ちにくいというメリットがあるだけでなく、回復が早いというメリットもあります。ただし、粉瘤を長期間にわたって放置していて、あまりにも大きくなった場合はくりぬき法やへそ抜き法ができません。その場合は、切開して除去するという手術法が採られることとなります。
粉瘤(アテローム)の手術
粉瘤を取り除くための手術方法について知って頂いたところで、次に、気になる手術の費用や保険の適用の可否、手術に要する時間などについて見ていきたいと思います。
粉瘤の手術時間
粉瘤の手術時間は、粉瘤の大きさや手術法によって異なります。ただ、通常は1時間を超えるような大手術になることはありません。
くりぬき法やへそ抜き法の場合、数分から十数分で終わることがほとんどです。溜まった垢や皮脂を絞り出すときに、包んでいた袋も一緒に出てしまえば、3分ほどで手術が終わるケースもあります。従来の紡錘形に切除し粉瘤を取り除く場合であっても、十数分から二十分程度で終わることがほとんどです。
粉瘤の手術の費用、保険は使える?
粉瘤の手術は、基本的に保険診療の範囲内でおこなうことが可能です。手術の前におこなう診察や検査、実際の手術、手術後におこなわれる診察など、すべてに保険が適用されます。手術の費用に関しては、粉瘤の大きさ及びできる部位によって異なってきます。また、費用は保険診療のため基本的には保険のクリニックでは全国一律となります。また、費用は治療院によって多少の差があるので、ホームページなどで確認するとよいでしょう。
一例を挙げると、粉瘤の直径が3cm以下の場合で3840円、粉瘤の直径が3cm以上、6cm未満の場合で9690円、粉瘤の直径が6cm以上の場合で、12480円などとなっています。ただし、上記の値段は非露出部(半袖・半ズボンで隠れる場所)の粉瘤の手術費であり、露出部(顔や首など)の場合、1000円前後上乗せされるようです。また、手術代のほかに病理検査費が3000円程度、手術時に使用する局所麻酔や、手術後に用いる軟膏代などに500円から600円ほどかかります。
粉瘤の手術は痛みがある?
粉瘤の手術をするときには、原則として局所麻酔が用いられるので、手術中に痛みを感じるようなことはほとんどありません。ただし過去に炎症を繰り返している粉瘤や炎症中の粉瘤は麻酔がききづらく人によっては痛みを伴うこともあります。
また手術をおこなったあとには傷口ができるので、手術後には痛みの出るケースもあります。そのため、一般的に粉瘤の手術をおこなったあとには、痛みどめを処方されるケースがほとんどです。
粉瘤(アテローム)を治して生き生きとした毎日を
粉瘤は良性の腫瘍であり、放っておいても別段問題はありません。ただ、大きくなってからだと手術にともなう傷跡が大きくなってしまいますし、基本的に自然治癒することもありません。「なんだかおかしいな」と思ったら、早めに皮膚科を受診して、取ってもらった方がいいですよ。