最近、世界的に見ても天災に見舞われる地域が増えています。日本でも降り続く豪雨や台風、震災の被害などの影響で、避難場所での生活を余儀なくされている方がいらっしゃいます。そんな人達の中に、エコノミークラス症候群が増えてきているそうです。
「天災は忘れた頃にやってくる」とも言います。いざというときのために、防災グッズを用意するだけでなく、エコノミークラス症候群に関する知識も身につけておきましょう。
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エコノミークラス症候群とは?
それでは早速ですが、エコノミークラス症候群に関する基礎知識について見ていきたいと思います。エコノミークラス症候群はなぜ起こるのでしょうか。
エコノミークラス症候群発症のメカニズム
昔、男子サッカーの日本代表選手が、飛行機での長距離移動の後にエコノミークラス症候群を発症し、代表を辞退したというニュースがありました。それがきっかけで、エコノミークラス症候群という言葉を知った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
飛行機に乗った経験のある方ならご存じだと思いますが、エコノミークラスは前後の座席間が非常に狭くなっており、飛行中の身動きが困難となっています。
そのような状態を長時間にわたって強いられることにより、下肢の血流が滞りがちになり、静脈血栓(静脈にできる血の塊)の現れることがあります。
下肢に現れた静脈血栓が歩く動作などをきっかけとして下肢の血管から離れ、血液の流れによって肺に到着すると、肺の動脈を塞いでしまうことがあります。
ちなみに、このような現象はエコノミークラスの乗客だけでなく、ビジネスクラスの乗客にも見られますし、長距離トラックの運転手などにも見られます。そのため、最近では旅行者血栓症とも呼ばれるようになっています。
エコノミークラス症候群の初期症状
エコノミークラス症候群は、医学的には「急性肺血栓塞栓症」とか、「静脈血栓塞栓症」などと呼ばれており、急性症状の出るケースがほとんどです。
ただ、どの程度の血の塊(血栓)が肺動脈に至ったのかによって、症状の程度が変わってくるようです。比較的小さい血の塊であった場合、特になんの症状も出ないケースもあるということです。
エコノミークラス症候群の代表的な症状としては、肺動脈が閉塞することによる息苦しさや息切れ、呼吸困難などがあげられます。
それも、徐々に息苦しくなるのではなく、突然、呼吸困難が起こるというのが特徴です。呼吸困難は、1回で終わるケースもあれば、複数回にわたって発作が起こるケースもあります。その場合、徐々に重症度が増してくるということもあります。
エコノミークラス症候群を発症した場合、半数の方に胸痛(胸の痛み、苦しさ)が現れ、10%から30%の人が失神するということです。その他の症状としては、動悸や冷や汗、全身の倦怠感、不安感などがあげられています。
エコノミー症候群が起きやすい場所や場面
エコノミークラス症候群が起きやすいのは、長時間にわたって同一姿勢を強いられる、長距離の移動中や移動後などです。飛行機での移動だけでなく、自家用車での移動によって、エコノミークラス症候群を発症するケースもあります。
また、最近では震災にともなう避難所での生活を避け、自家用車で寝るような方もいらっしゃいますが、そのような人にも、エコノミークラス症候群発症のリスクがあります。
エコノミークラス症候群の原因
エコノミークラス症候群に関する基礎知識を学んでいただいたところで、次に、エコノミークラス症候群の原因や、エコノミークラス症候群になりやすい人に関して説明したいと思います。
エコノミークラス症候群の原因①長時間足を動かさない
エコノミークラス症候群の原因としては、先ほども述べたように、長時間にわたって同一姿勢を強いられることがあげられます。
みなさんは、「足は第2の心臓」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。心臓には全身に血液を送り出す働きがありますが、心臓へと血液を戻す働きはほとんどありません。
そこで、全身の筋肉が収縮することによって、心臓へと血液を送り返すのです。この働きのことを「筋ポンプ」と呼んでいます。
ふくらはぎは心臓からもっとも遠い場所にある大きな筋肉であり、重力に逆らって上方へと血液を送り返す必要があります。そのため、第2の心臓と呼ばれているのです。
ところが、長時間にわたって同一姿勢を強いられると、ふくらはぎの筋ポンプが働きにくくなり、静脈血栓ができやすくなるのです。そのため、エコノミークラス症候群を発症するリスクが高くなるのです。
エコノミークラス症候群の原因②機内の乾燥
財団法人である「航空医学研究センター」によると、エコノミークラス症候群の予防法として、適切な水分摂取が推奨されています。
なぜなら、航空機内は乾燥しているからだということです。体内の水分量が不足すると、いわゆる「ドロドロ血液」になり、血栓のできるリスクも上昇してしまうのです。
こんな人はエコノミークラス症候群になりやすい
エコノミークラス症候群になりやすい人としては、長時間にわたって同一姿勢を強いられる旅行者などのほか、子宮筋腫や卵巣のう腫を持っている女性、妊婦さんなどもあげられています。
子宮筋腫や卵巣のう腫、胎内の赤ちゃんによってお腹の静脈が圧迫されると、血液の流れが悪くなって、エコノミークラス症候群を発症するリスクが高くなるということです。
また、長期の安静を要する病気の治療をおこなっていたり、脳卒中の後遺症で足が動かなくなったりした場合にも、エコノミークラス症候群発症のリスクは高まります。
その他、骨折などによって血管内皮が傷つけられたり、血管の中に点滴用・輸血用の管を長く入れていたりすることによっても、エコノミークラス症候群発症のリスクは高まるということです。
あと、先ほども少し触れましたが、震災や豪雨被害などから逃れるため、避難生活を余儀なくされている人の中に、エコノミークラス症候群を発症する人が増えています。
避難所で暮らした経験のある方ならご存知かもしれませんが、避難所生活にはほとんどプライバシーがありません。そのため、自家用車で過ごされる人も増えています。
その場合、長時間にわたって同一姿勢を強いられることとなるため、やはりエコノミークラス症候群を発症するリスクが高くなるのです。
エコノミークラス症候群を予防する方法
エコノミークラス症候群発症の原因を知ってしまうと、飛行機に乗るのが怖くなってしまいますよね。そんな人のために、エコノミークラス症候群を予防する方法について紹介しておきたいと思います。
定期的に水分補給する
エコノミークラス症候群を予防するためには、定期的に水分補給をすることが重要です。前出の航空医学研究センター研究指導部長によると、人間に必要な水分量は、体重1kg当たり、1時間に1mlとされています。
仮に体重が50kgであれば、1時間当たり50mlの水分を補給する必要があるということです。ただ、飛行機の中は乾燥しているので、倍量を飲んだ方がよいということです。
定期的に足の運動・マッサージをする
エコノミークラス症候群を予防するためには、定期的に足を動かす運動をしたり、足をマッサージしたりするとよいでしょう。
飛行機で長距離を移動する場合、なかなか身体を動かすことができないと思います。そのような場合は、つま先を立ててかかとの上げ下げをおこなうなど工夫するとよいでしょう。
また、水分をたくさん摂取することによって、必然的にトイレのために席を立つ機会が増えます。座りっぱなしでいるのではなく、フライト中も何度が歩くようにしましょう。
長距離を車で移動する際には、途中のパーキングエリアやサービスエリアに立ち寄って、少し歩くようにしましょう。
最近は、サービスエリア内に入浴施設を設けているところもあります。長旅の疲労回復がてら、そのような施設で身体を休めるのもよいでしょう。
足をマッサージする際には、ふくらはぎを両手で包みこむようにして、かかとの方から膝の裏へ血液を流すイメージで、心地よくマッサージするとよいでしょう。
予防グッズ-弾性靴下・ストッキングの着用はアリ?
エコノミークラス症候群について解説しているインターネットの記事などを見ていると、弾性靴下やストッキングなどを着用することを推奨しているケースもありますが、これは絶対にやってはいけないことの1つです。
弾性靴下や着圧ストッキングは、脚のむくみを改善するにのは効果的ですが、血液の流れを悪くすることに変わりはありません。
前出の航空医学研究センターや、厚生労働省のホームページを見てみると、エコノミークラス症候群を予防するためには、ゆったりとした服装を心がけ、きつめの衣服やガードルは避けるように書かれています。
エコノミークラス症候群の予防ガイドラインにも、弾性ストッキングの着用は中程度のリスクをともなうとされています。
アルコールを控え、できれば禁煙する
これまで何度も出ていますが、航空医学研究センターによると、飲酒によるエコノミークラス症候群発症のリスクが指摘されています。
エコノミークラス症候群を予防するためには適切な水分の補給が肝心ですが、アルコールには利尿作用があるので、水分を補給したことにはなりません。
むしろ、利尿作用によって水分を奪われますし、アルコールを分解するときに、体内の水分が大量に奪われてしまいます。飲酒は目的地に着いたときの楽しみにとっておきましょう。
また、タバコには毛細血管を収縮させる作用のあることが分かっています。エコノミークラス症候群を予防するためには、血液の循環を妨げないことが重要なので、できれば喫煙も控えましょう。
眠るときは足をあげる
長期間の安静を余儀なくされる入院生活を送られている人の場合、寝るときに足の位置を心臓よりも高くするとよいでしょう。それによって、血流を妨げることがなくなります。
エコノミークラス症候群の治療
実際にエコノミークラス症候群を発症した場合、病院ではどのような治療法がおこなわれるのでしょうか。エコノミークラス症候群の治療法としては、以下のようなものが知られています。
抗凝固療法
抗凝固療法は漢字を見ても分かるように、血液が凝固するのを妨げる治療法です。もともと、肺は血栓を凝固する働きの強い臓器として知られています。
そのため、肺に至った血栓が小さい場合、自覚症状がなく見落としてしまうケースもあります。もし、小さな血栓が超高速CTスキャンで発見された場合、これ以上血栓ができないよう、へパリンやワーファリンを用いた投薬治療をおこないます。
血栓溶解療法
血栓溶解療法も読んで字のごとく、血栓を溶かして、肺動脈に詰まらないようにする治療法です。どちらかというと、重症例のエコノミークラス症候群の治療に用いられる治療法となっています。
エコノミークラス症候群によって塞がった血管が広範囲にわたる場合、抗凝固療法では命に関わる危険があるので、より積極的に血栓を溶かす治療がおこなわれるのです。
カテーテル治療
エコノミークラス症候群による症状が極めて重たいケースや、心停止が見られるようなケースには、カテーテルによって、直接血栓を取り除く治療がおこなわれます。
下大静脈フィルター
エコノミークラス症候群の治療をおこなう際には、肺に詰まった血栓を取り除くだけでなく、足の静脈に血栓が残っているかどうかの検査もおこなわれます。
足の静脈に血栓の存在が認められた場合、下大静脈フィルターという網のような装置を血管内に入れ、これ以上、血栓が肺へと送られないようにします。
その他
エコノミークラス症候群を発症すると、呼吸困難をともなうことがあります。その際、補助的に酸素吸入療法がおこなわれます。また、必要に応じて強心薬や利尿剤が用いられるケースもあります。
エコノミークラス症候群は飛行機に乗らなくても起こる!
エコノミークラス症候群というと、飛行機のエコノミークラスで発症するものだと思われていた方も多いのではないでしょうか。実際には、自動車の中で長時間同じ姿勢をとることによって発症することもありますし、妊婦さんが発症することもあります。
もし、特に思い当たる原因もないのに、息苦しさのあるような場合には、ただちに内科や循環器科、心臓血管外科などを受診するようにしましょう。病気にともなって何科を受診していいのか分からない場合は、とりあえず内科を受診するようにするといいですよ。