リンパが腫れるなどという言葉を聞いたことがあると思いますが、急に首周りが腫れるなどすると、なんらかの疾患を発症したのではないかと心配になりますよね。
では、リンパが腫れている場合、どのような疾患の可能性が考えられるのでしょうか。リンパ節の仕組みとあわせて紹介していきたいと思います。
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リンパ節の組織
リンパ節が腫れる原因や、リンパ節が腫れた場合に考えられる疾患について紹介する前に、まずは、そもそもリンパ説とはなんなのかについて知っておきましょう。
人体のおよそ60%は水分だと言われていますが、そのうちの3分の2が細胞内の存在しており、残りの3分の1が細胞外に存在しています。細胞外の水のことを、一般的に「体液」と呼んでいます。
体液の代表が血液(血漿)であり、リンパ液や脳脊髄液も体液に含まれます。リンパ液の通り道がリンパ管であり、その途中にある「関所」のような組織をリンパ節と呼んでいます。
心臓から全身へと送り出された血液の9割は、静脈をとおって心臓へと戻ってきます。残りの1割は、身体の隅々にある毛細血管網から漏れだし、細胞間に組織液として溜まります。
組織液には、細胞に栄養を与えたり、細胞から老廃物を受け取ったりする働きがあります。余分な組織液の内の8割から9割は血液中に戻りますが、残りの1割から2割はリンパ液となるのです。
リンパ液はリンパ管を通って、鎖骨の辺りで静脈へそそがれます。リンパ節には、リンパに含まれている異物を処理し、血管内に侵入するのを防ぐ働きがあります。
リンパ節は、首や脇の下、鎖骨や太ももの付け根など、さまざまな場所にあります。そして、さまざまな原因によって、リンパ節が腫れるのですが、その原因については、後ほど詳しく紹介したいと思います。
リンパ節が腫れる・痛くなる理由
リンパ節が腫れることを、医学的にはリンパ節腫脹(りんぱせつしゅちょう)と呼んでいます。耳の下には大きなリンパ節があるので、リンパ節腫脹は耳の下によくみられるということです。
リンパ節が腫れたり、痛くなったりする理由は、何らかの原因によってリンパ節に炎症を起こすからです。炎症には、5大徴候と呼ばれるものがあります。
それは、「発赤(ほっせき)」「腫脹」「熱感(ねつかん)」「疼痛(とうつう)」「機能障害」です。疼痛とは、疼くようにズキズキと痛むことを意味します。
炎症というと悪いイメージがあるかも知れませんが、実は、治癒反応という側面も持っています。細菌やウイルスに感染すると、身体を守ろうと白血球が働きます。
感染症のときに白血球の数値が上がるのはそのためです。そして、白血球が細菌やウイルスと戦う際に、炎症がみられることとなるのです。ちなみに、膿とは白血球の死骸なのです。
リンパ節腫脹の原因となる疾患
リンパ節の仕組みやその働き、リンパ節が腫れたり傷んだりする理由について知って頂いたところで、次に、リンパ節主張を引きおこす原因疾患について見ていきたいと思います。
感染症
リンパ節腫脹を引き起こすもっともありふれた原因疾患が、感染症です。中でも、上気道感染症はリンパ節腫脹を引き起こすポピュラーな疾患として知られています。
上気道とは、鼻腔や咽頭から、喉頭までの空気の通り道を指します。上気道に細菌やウイルスが侵入することによって、上気道に炎症がみられたり、リンパ節腫脹が起こったりするのです。
上気道感染症のほとんどが風邪です。風邪は医学的に「かぜ症候群」と呼ばれており、そのほとんど(80%から90%がウイルス性とされています。
上気道感染症を引き起こすウイルスとしては、アデノウイルスやコロナウイルス、ライノウイルスやRSウイルス、パラインフルエンザウイルスなどがあげられています。
小さいお子さんがいらっしゃる家庭ではおなじみのウイルスかもしれません。ちなみに、ウイルス性の疾患を根本から治療するための医薬品は存在しません。
「風邪を治す薬ができたらノーベル賞もの」と言われるのはそのためです。「え?風邪薬があるじゃない?」と思われる方は、風邪薬の説明書をよく読んでみてください。そこには、風邪による「諸症状の緩和」と書かれているはずです。
つまり、風邪薬には、風邪にともなって見られる発熱や頭痛、鼻水や咳などを出なくする働きはありますが、原因となるウイルスをやっつける働きはないのです。
インフルエンザに対するタミフルも同様です。タミフルにはインフルエンザウイルスの増殖を食い止める働きはあるのですが、インフルエンザウイルスそのものをやっつける働きはないのです。
上気道感染症を治療する場合、多くの病院やクリニックで抗生物質が処方されますが、抗生物質は細菌をやっつけるための薬なので、ウイルス性の疾患には効果がありません。
病院やクリニックでは「二次感染を防ぐため」などと説明されていますが、これこそが耐性菌増加の原因であると、多くの感染症専門家は指摘しています。
自己免疫疾患
リンパ節腫脹と自己免疫疾患をともなう難病に、自己免疫性リンパ増殖症候群と呼ばれる疾患があります。自己免疫性リンパ増殖症候群の患者数は、全世界で400人、日本で20人ほどと考えられています。
2歳から3歳の頃に発症するケースがほとんどで、50歳まで生存する確率は85%程度だということです。年齢とともに症状が軽くなる傾向があるそうです。
医原性
なんらかの病気の治療にともなってリンパ節腫脹がみられる場合、医原性リンパ増殖性疾患の可能性もあります。最近になって、関節リウマチを治療している人に、リンパ節腫脹のみられるケースがあるということです。
ただ、日本における医原性リンパ増殖性疾患の患者数は発症率、背景因子などはまだ明らかになっておらず、今後の調査結果が待たれています。
悪性疾患
リンパ節腫脹がみられる場合、悪性疾患が疑われることもあります。リンパ節腫脹をともなう悪性疾患としては、悪性リンパ腫や急性白血病、結核やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、悪性腫瘍やガンの転移などがあげられています。
脂質蓄積症
脂質異常症(かつての高脂血症)によって、脂質代謝に異常が見られる場合、代謝物質が蓄積することによって、リンパ節腫脹を引き起こす可能性があります。
内分泌系
甲状腺機能亢進症や、難病の一種であるアジソン病を発症した場合、リンパ節腫脹の見られることがあるということです。甲状腺機能亢進症の代表例がバセドー氏病です。
全身の新陳代謝が異常に早くなるため、心臓がドキドキしたり汗をたくさんかいたり、体重が減少したり、イライラしたりします。また、目が飛び出したようになるのも特徴です。
アジソン病は、ステロイドホルモンの分泌量が、慢性的に生体の必要量以下になってしまうことで発症すると考えられています。
リンパ節の腫れと痛みのチェック方法
それでは次に、リンパ節の腫れと、痛みのチェック方法について紹介したいと思います。ただし、このチェック法はあくまでも目安に過ぎません。自己判断で放置せず、必ず病院を受診するようにしてくださいね。
リンパ節の腫れの大きさ・かたさ・痛みの有無
リンパ節の大きさは、一般的に米粒大から小豆大とされています。とはいっても、普段からリンパ節に触れている人はあまりいないのではないでしょうか。
明らかに上気道感染症(風邪など)にともなってリンパ節が腫れているのであれば、それほど心配することはないでしょう。ただ、リンパ節腫脹がみられる際に怖いのが、悪性リンパ腫の可能性です。
リンパ節腫脹が悪性リンパ腫によりものであるのか、そうでないのかを判断する基準はいくつかありますので、紹介しておきたいと思います。
- リンパ節の大きさが1.5cm×1.5cm以上になっている
- リンパ節を押しても痛みはない
- リンパ節の形が丸くなっている
- 鎖骨の上にあるリンパ節が腫れている
- 原因不明の体重減少が見られる
- リンパ節から膿がでている
このような兆候が見られる場合には、ただちに病院を受診するようにしましょう。自己判断で放置すると、後悔をする結果になりかねません。
腫れと痛みの継続する期間
リンパ節腫脹にともなって、強い痛みや膿などが見られる場合には、ただちに病院を受診するようにしましょう。その他の場合は、かかりつけのお医者さんに電話で相談するとよいでしょう。
リンパ節腫脹から考えられる病気
リンパ節腫脹がみられると、「病気になってしまったのかしら?」と心配になることと思います。そこで、リンパ節腫脹がみられる場合に、考えられる病気を紹介しておきたいと思います。
全身のリンパ節が腫れている場合に考えられる病気
リンパ節腫脹は大きく分けて、局所に起こるケースと、全身のリンパ節に見られるケースの2つのタイプがあります。では、全身のリンパ節が腫れるような場合、どのような病気が疑われるのでしょうか。
白血病
全身のリンパ節が腫れているような場合、白血病の可能性が考えられます。白血病には、急性白血病と慢性白血病の2種類があり、それぞれ、骨髄性とリンパ性の2タイプがあります。
中でも、リンパ性の白血病の場合、リンパ節腫脹の見られることがあるということです。白血病というと、血液の癌としてよく知られていますが、血液中のがん細胞はそれほど多くなく(骨髄のがん細胞は増加)、正常細胞の現象が目立つというケースも多いようです。
骨髄性の白血病とリンパ性の白血病とでやや症状の重さは違いますが、いずれのケースにおいても、発熱や出血、貧血といった症状が見られるということです。
慢性の白血病に関しては、欧米では慢性リンパ性白血病がポピュラーなのですが、日本での症例はあまりないようです。日本で慢性白血病といった場合、慢性骨髄性白血病のことを指すケースがほとんどです。
悪性リンパ腫
全身のリンパに腫れがみられるような場合、悪性リンパ腫を発症している可能性もあります。悪性リンパ腫も血液のがんの一種で、白血球の一種であるリンパ球ががん化するという特徴を持っています。
白血病の場合とは異なり、悪性リンパ腫は塊を形成するという特徴もあります。特に腫れやすいのが首や脇の下、足の付け根のリンパ節なのですが、どこのリンパ節が腫れてもおかしくないということです。
ただ、上気道感染症にともなって現れるリンパ節腫脹の場合とは異なり、通常は圧痛(押した際に痛むこと)はありません。数週間から数ケ月かけて病状が進行すると、腫れが全身に広がって、症状も全身に波及します。
悪性リンパ腫の症状としては、発熱や急激な体重の減少、極端な寝汗などがあげられています。その他にも、身体にかゆみや発疹がみられたり、血流障害が見られたりすることもあります。
また、悪性リンパ腫によってできた腫瘤によって気道が圧迫されると、気道閉そくを起こすようなこともあります。そのような場合、ただちに治療を開始する必要があります。
悪性リンパ腫が起こる原因については、ハッキリとしたことが分かっていません。ただ、免疫不全の人に、悪性リンパ腫の現れやすい傾向があるようです。また、遺伝との関係も指摘されています。
ウイルス性感染症
ウイルス性感染症によって、全身のリンパ節に腫れが出ることもあります。ウイルス性感染症の場合、リンパ節を押した際に圧痛をともなうという特徴があります。
また、リンパ節が急に腫れてきて、痛みが急に出始めるという特徴もあります。ウイルス性感染症としては、伝染性単核症や風疹、麻疹、流行性耳下腺炎、水痘、HIV感染症などがあげられています。
伝染性単核症は、思春期から青年期にかけてよく見られる疾患で、ほとんどはEBウイルス(Epstein-Barr Virus)に感染することによって起こります。
伝染性単核症は、英語で「Kissing disease」とも呼ばれており、キスをしたときに唾液を介して感染するケースもあるということです。
日本人の場合、およそ7割が2歳から3歳までに感染を終えているとされ、20代になると9割以上の人が抗体を持っているということです。小さいうちに感染した場合は、自覚症状をともないません。
思春期以降に感染した場合、38度以上の熱が1週間ほど続くほか、全身がだるくなったり、鼻づまりやのどの痛みが見られたり、扁桃腺が腫れたりするということです。
自己免疫疾患
自己免疫疾患がある場合、全身のリンパ節腫脹の起こるケースがあるそうです。先ほども少し触れましたが、自己免疫疾患の一種である関節リウマチを治療している人には、リンパ節腫脹が見られやすいという報告も出てきています。
自己免疫疾患とは、本来であれば身体を守るべき免疫機能が、自分の細胞を攻撃し始める疾患のことを言います。自己免疫疾患の原因については、ハッキリとしたことが分かっていません。
部分別の腫れから考えられる病気
それでは次に、局所のリンパ節が腫れるような場合、どのような病気が考えられるのかについて見ていきたいと思います。
頸部
頚部のリンパ節が腫れる代表的な疾患としては、上気道感染症があげられます。風邪を引いたときに、喉のリンパが腫れるなどと言いますが、それは、喉のリンパに炎症を起こすことによって現れるのです。
鎖骨上リンパ節
鎖骨にあるリンパ節が腫れている場合で、40歳以上である場合、がんを発症している可能性があるので、注意が必要だとされています。
リンパ節を指で押したときに、やわらかくて動きのある場合はそれほど心配しなくていいのですが、リンパ節が固くなっていて、動きが悪い場合には速やかに病院を受診しましょう。
わきの下
わきの下のリンパが腫れている場合は、上肢の感染症を起こしている可能性があります。また、乳がんの際にわきの下のリンパが腫れるケースもあるので、やはり早めに病院で診てもらいましょう。
太ももの付け根
太ももの付け根にあるリンパ節が腫れているような場合、下肢に感染症を起こしていたり、陰部に感染症を起こしていたりする可能性があります。
リンパ節が腫れたらどうすればいいのか
リンパ節が腫れる原因や、考えられる病気などに付いてみてきましたが、いかがだったでしょうか。風邪でリンパがよく腫れるという人の場合、それほど心配する必要はないかもしれません。
ただ、いつもとは違った場所のリンパが腫れてきたり、急速に腫脹が大きくなってきたり、痛みが強かったりする場合は、速やかに病院で診てもらうことが重要です。
耳の下やのどの下のリンパが腫れたのであれば、耳鼻科を受診するとよいでしょう。何科を受診したらいいのか分からない場合は、とりあえず内科を受診しましょう。検査の結果、適切な科を紹介されると思います。
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